喪失の響き (ハヤカワepiブック・プラネット) (単行本(ソフトカバー)) キラン・デサイ (著), 谷崎 由依 (翻訳) 最も小さな視点から PEELERの連載では、多くの本から引用を載せていますが、それについての自分の感想は挿し絵にこめていて、実際に言葉で述べることはありません。ですから、今回このような機会を頂いて、たいへん恐縮しています。 テレビで見た著者のインタビューに感銘を受けて、それ以来この邦訳が出るのを待ちこがれていました。 作品にはネパール系反政府勢力が登場しますが、その描き方が一方的だとして、著者は抗議の手紙をたくさん受け取ったのだそうです。それについて彼女はこう答えています。 「それでもやはり作家は最も小さな視点から物を書くべきだと思います。それが一番大事なことです。一人の人間が経験していることを描くんです。それがたとえ混乱し欠点のある人間であっても、一人の人間を大切にすることです。……」 彼女の表現には、ときどき差別的なのではないかと思うような露骨さがあります。でもそれはユーモアに満ちダイナミックで小気味よく、なにより真実味にあふれています。 美術の制作においても、作家は個人の視点、個人的な実感から出発すべきだと、これまで信じてきました。それは時には、女性特有の内省的な行為として、忌避され軽視されることもあります。けれども彼女の作品は、一人の人間の視点を誠実に追求していけば、より大きな普遍性へ辿りつくことを証明しています。