言葉からの触手
(河出文庫) (文庫)
吉本 隆明 (著)
友人からずっと借りたままの本です。
友人からずっと借りたままの本です。いつも鞄の中に入れてあって、ふと思い出した時にページを繰って、そのとき目にとまった箇所を読んでいます。そうやって断片的に読むのがこの本の正しい読み方である気がします。そこに書かれた文章は、おそらく吉本さんだけが持つ言葉という尺度でこの世界を測ったものであり、他人が読んでも理解することは困難です。しかし、その文体には言葉や世界に対しての吉本さんの真摯な眼差しを感じます。
言葉には「他者に伝えるための言葉」と「自分のための言葉」があると思います。そして「どうしても伝えたいのに言葉にならない言葉」もあります。言葉にならない言葉は、他者のためなのか自分のためなのかに迷い、訳の分からないことを口走ったり、支離滅裂な手紙になったりします。けれども、対象を正しく見つめることができれば、どんなにおかしな言葉でもきっと伝わると思います。言葉にするということは、対象の抽象化でも具象化でもなく、正当化なのだと思います。