■収穫 〜6.距離 作品と人〜
10月12日、この日から最初の「収穫」がカフェで始まる。淺井は、マスキングプラントを必ず収穫する。意図的な理由がない限り残さない。剥がしてゆき、別の作品へと変容させる。このとき彼は、その「収穫」に他者の手を借りた(図9)。
淺井が、自分の作品に他者を積極的に受け入れるようになったのは、この一つ前の展示「植物のじかん」
メディアセブンでのワークショップからだ。
美術館の職員、友人、その他の人々と一緒に収穫をする。マスキングプラントを壁から剥がしてもらい、テープをこまかくちぎってもらう。リレー形式で手渡し、それを淺井が台紙に貼り付けてゆく。そうして様々な形の「標本」ができあがった。わたしが知る限り、彼は自分の作品に他の人の手が加わることにそれまでとても慎重だった。その収穫に他者の手を借りること、自分の作品の一部に他者の要素が関わることをこの頃から彼は今までと違った方向に考え始めているように見える。彼が、収穫に人の参加を集うようになったのは、前々からであろう。淺井が公募し、全く知らない誰かを参加してもらうことを良しとして受け入れていったことは、淺井の中で確実に何かが変化していったひとつの現れだとも考えられる。淺井は、マスキングプラントのサイクルの中に、他者が参加することが可能な場所を積極的に見つけ出し始める。
そのように、横浜美術館におけるマスキングプラントも急速に成長していった。この急速な変化とともに、連続し他の変化も現れる。まず、額装が始まる。Tシャツとエコバックなどの限定グッズを作る。彼は、確実に周囲の人間を引きつけ、巻き込み、新たな場面を作り出していった。彼の作品に協力したい。彼に協力したいとう気持ちをいろんな人が分かち合っている。「つながり」がここにも生まれる。
そんな彼の元に、新しいニュースはもたらされた。車両メーカーとのコラボレーションは美術館側とメーカーの交渉の末、車両にマスキングプラントを描くこととなって実を結んだのだ。当初剥がされる予定だったマスキングプラントは、その車両とコラボレーションを実現することとなった。車両メーカーのイベント規模、予算などを考えてみればその舞台に予定外の作品を導入するというのは淺井にとっても車両メーカーにとってもとても大きな飛躍である。10月半ば、車両メーカーの展示の前日、彼は、その車両にマスキングプラントを描いた。その翌日その車は他の車と一緒に展示された。「車」という物質に見事に巡らせられた、マスキングプラントは、その車自体が会場になじむように、調和して仕上がっていた。