toppeople[安冨洋貴インタビュー]
安冨洋貴インタビュー
 


《夜の根拠》Courtesy imura art gallery


《透明の夜》Courtesy imura art gallery

カメラアイで見せたい


藤田
写真をもとに描く、っておっしゃったけど、写真を撮りに行くんですか?

安冨
ふだんからカメラは持ち歩いています。
歩いている中で、その場所に磁場があるというか、何か素通りできない、という光景に出会うことがあります。
そこには澄んだ透明な気の交流を感じます。緊張感もあるんですけど、でも不思議と落ち着きます。
例えばお寺とかに行った時、しーんとしてると、緊張しているけど落ち着く、っていうのがあると思うのですけど、ああいうかんじですかね。

藤田
いつもカメラを持ち歩いて、そんなに枚数多く撮るわけではないでしょう?
描くときに写真を選ぶんですか?

安冨
選びます。
同じところに何回か行くときもありますけど、スナップ的に一枚カシャッと撮った写真が採用になる時もあります。

藤田
撮影した画面の範囲、幅イコール描く画面の範囲、幅になるのですか?

安冨
だいたいそうです。
専門的に写真を学んでいるわけでもないので、写真の質には、そんなにこだわっていません。

藤田
それを再現するのは大変じゃないですか?
模写することもないでしょうが、どこでオリジナルになるんですか?
どのくらい手が入ってるんですか?

安冨
結構入ってます。
もとの写真をこれです、と見せると、すごい分かると思います。

藤田
見せないほうがいい?

安冨
うーん。
学生のときに研究発表という形で並べて見せたことがあって。
そしたら教官が「安冨、全然違うやないか」って(笑)。
なので写真は感激を伴って瞬間に訪れた光景をとどめるんだ、という契機としての意味合いがより強くあります。

藤田
描くための参考図版なんですね。
記憶はしないですか?

安冨
記憶しますよ。
卒業アルバムとか記念写真とかもそうですけど、出来上がってる写真を見たら「全然違う、この顔」っていうのがあるじゃないですか。
でも見ているうちに「こういう感じだったよな」と記憶が呼び起こされる。

写真というのは一般的に忠実な再現性があるものと認識されていますが、実際の思い出を有している人は、写真を見ることによって、より鮮明で、写真よりも忠実な記憶が呼び起こされる。
写真にはこのような働きがあると思うんですね。
写真という画像が網膜上で再現されているだけじゃなく、頭の中に入って、本人も忘れていた記憶と結びついて、より鮮明に再現される。

僕は写真にはそういう特性があるんじゃないかな、と思うし、むしろそういう点に期待しています。
ただ、写真特有の「カメラアイ」といわれるようなものは、積極的に使っていってます。
「写真が間に存在している」ということが、見てすぐわかるようにしていたい。
最初は日付を入れていたり、周りの白枠をはめてたりしたんですけれども、途中からやめました。
そういうことは説明的だし、そんなことをしなくても、写真をもとにしていることが十分伺える、そういう画面でありたいと思います。


藤田
最近はどうですか?

安冨
今まで、公衆電話や傘を描いていたころは、屋外を描くことが多かったのですが、最近は屋内を描くことが多くなってきました。
駅とか、学校とか、デパートやホテル、というような、自宅ではない、公共施設の中というのが、好ましいです。


藤田
それはまだ、誰かとつながっていたかったり、公共物に思いがあるから?

安冨
公共物に対する思いはありますが、誰かとつながっていたいというのは、当時に比べて、どうかなあ。


藤田
寂しくなくなってきた??

安冨
そうでもないですけど、どうなのかなあ。
誰かとつながっていたいというのは、やはりまだあると思います。


藤田
このソファとか、どこなのでしょう?

安冨
デパートのロビー、駅ビルみたいなところ、そういう不特定多数の人が行き交ってて、それは単に通過しているだけかもしれないんですが。
永続的なあるいは永久的な休息ではないですけど、ソファは、ぱっと寄りかかれる、ここに心を預けられるという存在かな。
前提として「ひと時の安らぎのためのもの」というのがあるだけに、それを描きとめることで、その安らぎや、安らいだという記憶を獲得、永久に保持できるのかな、と。
ハッチング(線をひっかき集積する技法)で、描きます。完成した画面には描いている時の手の動きや鉛筆の軌跡が残ります。
これも特定の時間の痕跡が、時を越えて永続的に再現される効果があります。
 
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