ニューヨークに行ってみて
藤田
私は5年ぶりくらいに休み時間ができた今年2月下旬、ロンドンとドイツに行ったんです。
日本に帰国して間もない3月、冨井さんに連絡を取ったら、ニューヨークに行ってらっしゃいましたよね?
冨井
僕も半分は休みのような感じ。大学で派遣される海外研修で。
個人的な旅行では、ニューヨークは絶対行かない様な気がしたので行きました。
藤田
どのくらい行ってたんですか?
冨井
21日間ですね。
藤田
長っ!
冨井
目的は単純で、MOMAやDIA beaconに行って、60〜70年代のアメリカの美術を実際に体験、確認すること。
日数が長かったおかげで、かなりじっくり見て来れました。
藤田
私がロンドンやドイツのギャラリーで見たとき、作品は東京や日本で見るものとあまりレベルも内容も変わらないなと思ったのですが、どうでした?
冨井
日本だと、コマーシャルギャラリーと(主に銀座の)貸画廊が役割をわかっていて、それぞれの面白さと存在価値が展示からも伝わってくる。
だけどニューヨークのギャラリーは、ほとんどのスペースが大きいから、ぱっと見だとみんな同じに見える。
藤田
私はニューヨークに行ったことがないので良く分からないのですが、スペースの大きさイコール権威がある、力のあるギャラリストのギャラリーだ、というわけではないんですね。
冨井
当然、凄いギャラリーは確実に違うという感じはありますよね。
ただ、それ以外のギャラリーの場合、ギャラリーそれぞれが持つ内容の違いを誰もが感じるのかというとそうではないと思う。
ただ、単に僕がその状況に初めて接したからそう思うのかもしれなくて、見慣れていれば、そんなに問題はないのかもしれない。
藤田
東京だと、銀座と清澄白河では、スペースの大きさが全然違うのに。
冨井
逆に欧米の人たちが銀座の雑居ビルの展示を見たら面白がるのではないでしょうか?
銀座のギャラリーの様な小さいスペースでも結構なクォリティの展示ができる日本の作家の平均値というのは凄いと思うんですよ。
あと、ニューヨークに行ったことで、僕は余計なことを考えずに済むようになった。海外に対して、そんなに引け目も感じなくなった。
ただ、その経験が自分の作品に直接、影響してくるのは、まだ先の様な気がする。
藤田
まだ消化されてない、ってことですね。
冨井
全然ですね。
2〜3年の間に、この経験を作品に消化したいと思っています。
今までは、海外に滞在することに全然興味がなかったんですね。
日本でやれることはまだあるから、日本でやってようと思っていた。
でもニューヨークに行ってみたら、「良い」といわれているもの、例えばポロックの代表作がいつでも見ることのできる状況にあるわけですよ。
これは日本ではありえない。せめてあと半年、ニューヨークに滞在してみたい、ここで作品を展示してみたいと思いました。
作家としてできること
藤田
この5年間、冨井さんに言われたことで印象的だったのは「コレクターは作品を買うことが表現」という言葉です。
だけど冨井さん、ご自分でKABEGIWAってスペースをキュレーションしてますよね?
冨井
キュレーションはしてないですよ。
藤田
え?
冨井
KABEGIWAは「作家が作家同士で本気で楽しいことをする」という主旨のものであって、僕がキュレーションする場でも、ただ展示をするだけの場所でもないのです。
僕はあくまでも世話人という立場。
藤田
誤解していました。
冨井さんキュレーション、冨井さん企画、の場所だと思ってました、ごめんなさい。