タムラサトルは“変わらない”作家である。
『意味の破壊』をテーマに、様々なモノの意味を無効にする作品を、彼は一貫して制作し続けている。
その一方で、前回インタビューしてからの5年間で、公立美術館での大規模な個展や海外での展示、国際展への参加など、タムラを取り巻く環境は大きく変化した。
そんなこの5年間での変化と、そんな中でもぶれることのない制作姿勢を元に、タムラサトルの5年間の軌跡を、Art Center Ongoingでの個展中に開催した公開インタビューで追った。
INTERVIEWER 藤田千彩&横永匡史
公開インタビューの模様
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藤田
PEELERでは、定期的にアーティストの定点観測をして、作家の生き様とか、作品の経緯、移りゆく様みたいなものを見よう、ということを試みています。
今回、タムラさんも、5年ぶりに話を聞いてみましょう、ということで、今回の個展に合わせて公開インタビューをすることにしました。
タムラサトルクロニクル2006〜2010
藤田
まずはこの5年間をざっと振り返りたいと思います。名付けて「タムラサトルクロニクル2006〜2010」です。去年や今年とかは公立美術館でされてたりとかしてますが、前回2005年に行ったインタビューの時は、そんなことではなかったですよね?
タムラ
基本的に僕は、作品とプランを持ち込んで、そのプランを実現させてもらえるような場所を探していたんですが、レンタルスペースでやるのはお金がもったいないと思ったんで、現代美術製作所とか、ギャラリーアート倉庫とか、そういう比較的大きな規模のプランを実現できるオルタナティブスペースを集中的に回って、そういうところでやっていることが多かったですね。
藤田
2007年からすごく多忙になっていったんですね。まず、フランスで展示があり、次に、所属されているTakuro Someya Contemporary Artで個展を行いました。その次のGallery Qでの展示は、ちょうど移転したときの展示でしたっけ?
タムラ
そうそう。同じ銀座のすぐ隣の大きなビルに移転して、新規オープンした時の記念に開催された、ご祝儀みたいな感じの展覧会でしたね。
藤田
ART BY XEROXのギャラリーや、仙川のプラザギャラリーで展示がありましたね。
タムラ
そうですね。
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「No Tatami Spot」国立シャイヨー劇場 グラン・フォワイエ(大ロビー)内 2007年1月17日〜1月27日
「The Party」ギャラリーQ(東京都中央区) 2007年7月18日〜7月28日 |
藤田
だんだん作品が光り始めてきましたね。
タムラ
いや、光るのは2005年のout-loungeから。
藤田
out-loungeのときは、パンタグラフがバチバチする作品でしたね。と2007年が過ぎまして、次に2008年です。まず、「-EsquireCAFE08/SS-‘ART’-」、Esquireっていう雑誌が主催した、これは青山の街をつなぐイベントで、カフェに作品を置くような感じのものでした。
タムラ
展示したUn Cafeは、青山ブックセンターに隣り合ったようなところで、この展示自体も、カフェとの共存ってことを考えて、それほど展示前面って感じじゃなかったような気がします。
藤田
あとは、Art Center Ongoingでの展示です。
タムラ
これは、「100kg Man」を出させてもらったときの、まさにこの場所ですよね。
藤田
プラザノースでの「Domain of Art 1」です。プラザノースは、さいたま市の北区役所と併設されている文化施設です。オープン記念展というか、こけら落とし展って感じですよね。
タムラ
そうですね。今僕が住んでいるのが、さいたま市のすぐ隣の蓮田市ってところなんで、それで(施設側が)使いやすかったってこともあったと思うんですよね。
藤田
次がリバプールビエンナーレですね。このときの展示は、インスタレーションですよね。
タムラ
これはですね、作家の開発好明さんがキーパーソンだったんです。向こうの条件が、光って動く人っていうざっくりした指定で、「じゃあ、君じゃない?」ってことになって、開発さんに呼ばれたんです。それで、神田かどっかにプレゼンに行って、なんとなく2人組かなんかの英語で早口でしゃべっていたら、もう決まっていたんだなってことだったんです。
藤田
ああ、何となく雰囲気はわかりました(笑)。次が、横浜美術館の裏にある住宅展示場であったアートフェア「横浜アート&ホームコレクション」。
タムラ
アートフェアだった割には、うちのギャラリー(註:Takuro Someya Contemporary Artのこと)だけ展覧会のような展示をしてしまったんですよ。見た人の印象はいいんですが、売り上げにはつながらなかったっていう。相当力入ってましたからね。アートフェアの割に。
藤田
次はCET(CENTRAL EAST TOKYO)です。これは純粋なアートというよりも、ちょっとオシャレ系なアートだったりデザインだったりするようなイベントに、タムラさんが出してたと。これで2008年が終わり、次は2009年です。まずは岡本太郎(註:「岡本太郎現代芸術賞展」のこと)ですね。
タムラ
これは、同じ光の作品でも、CETとは見せ方が違うだけでやってることはほとんど同じ、横浜のアート&ホームコレクションとは全く違う作品なんですね。光の作品は基本的にわかりやすいんで、割とうちでやってくれって話はあるんですけど、火花がまずいってところのために、これをプラザノースに展示する際に作ったんです。
で、火花は出ないけど、明滅がするっていう作品です。2011年の2月に、BEAMS のBギャラリーってところで、これの最終形のものを見せようかな、と思ってます。ここもやっぱり、光るものはいいんだけど、火花はまずい、っていうときにこれを使う作品なんです。
藤田
次がまたプラザノースの「プラザノースのはるまつり」です。これは、修了制作なんでしたっけ?
タムラ
後ろに見える黄色のワニが卒業制作です。1996年の作品です。13年物。でもこの作品は今でも展示している。まあプラザノースはるまつりは光る作品じゃないけどね。
「-Esquire CAFE 08SS-’ART’-」Uncafe(東京都渋谷区)他 2008年3月19日〜4月6日
藤田
では2009年後半に入って、郡山市立美術館の展示です。
タムラ
この展示が、公立美術館のルートに乗り出した最初の展示だったんですけど、この展示の話をもらったのが、まさにここOngoingでだったんですね。2008年にここを観て、プラザノースを観て、で、またここにも来てくれて、それで正式に誘われたんです。
藤田
すごいですねぇ。市原市水と彫刻の丘での展示の後、栃木県立美術館のは、美術館でのワークショップだけですか?
タムラ
このワークショップ自体は郡山でもやってるんですね。郡山でやったものが栃木に移動して今年の夏には群馬に移動してる。結構わかりやすくて、怪我しなくて、見栄えがいいっていうんで、比較的こういうのやってくれっていう話があるんですよね。
藤田
これは、LEGOをビルだったりとか、人の形だったりとかみたいな感じで、組み合わせていって100gぴったりのものをつくるっていうワークショップですよね。
タムラ
LEGOの一番ちっちゃいブロックって0.4gぐらいなんですよ。だから、(重さをぴったりに揃えるのは)そんなに難しい話じゃないんですよ。
藤田
次はTakuro Someya Contemporary Artでの展示ですが。
タムラ
これは、このギャラリーが柏から築地に移動して、1 回目のビューイングでした。で、一応来年の5 月の終わりくらいに、個展をここでやることになると思います。
藤田
で、2010年に入りまして、いきなり1月に静岡での展示ですね。
タムラ
これは、お皿が提供されて、お皿を使って展覧会をしてくださいっていうお題があって。このお皿は、持つところがちょっと広いデザインのものなんですけれども、そこにバイブレーションモーターっていう震えるモーターがついていて、それが細かく振動することで、食器が皿を打つんです。
藤田
栃木県にある小山市立車屋美術館での「小山マシーン」です。タムラさんは栃木県の小山市出身で、この作品は「小山」って字に自転車のチェーンがついてて、それがゆるーくゆるーく回ってるだけでした。
タムラ
そうですね。間違った郷土愛ですね。
藤田
小山市にちょっと注目されてしまった結果、小山市から助成金をもらうことになったんですね。しょっちゅう市長も展覧会に来ていたそうですね。
タムラ
普通、公立美術館では、なかなか首長が来なくて、美術館の方からせめて年に1回は来てください、とか要望を出すくらいなのに、市長は週一で来るんです。
(一同爆笑)
タムラ
それでお茶を飲むわけでもなし、まあ居心地がいいのか、文句つけたりとかしに来るんですけど、好きなのかどうかはよくわからないですね(笑)
(場内笑)
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「横浜アート&ホームコレクション」横浜ホームコレクション(神奈川県横浜市) 2008年11月28日〜11月29日 |
藤田
あとは、山形県鶴岡市の鶴岡アートフォーラムというところですが、これは公共施設ですか?
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「CET 08」泰岳ビル(東京都千代田区) 2008年12月6日〜14日 |
タムラ
そうですね。タイトルは、言って楽しいタイトルにしようってことで、「ぐるぐるボカン」ってなったんです。
藤田
(笑)
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「第12回 岡本太郎現代芸術大賞展」川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市) 2009年2月7日〜4月5日 |
タムラ
ゴシックで見ると、「ぐるぐるボカン」ってバカみたいなんですけど、このフォントは最初からこういうデザインがあって、(ロゴを見たときに)何かこれはもう最初からできてた話だ、と思いました。
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「プラザノース はるまつり スピンクロコダイル・ガーデン」プラザノース ユーモアスクエア(埼玉県さいたま市) 2009年4月29日〜6月21日
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藤田
なるほど。もうカッコよさとかすっ飛ばして。
タムラ
そう。絵柄も含めて、よくできたチラシですよ。本当に。たとえ行かないとしても、思わず持っていきたくなりますよね。
藤田
同じ時期でちょっと時期がずれて、埼玉の栗橋っていうところで、小学校の体育館で展示をする現代美術のグループ展「分岐点」っていうのがあって、それにタムラさんが出されてました。
タムラ
栗橋っていうところは、合併して久喜市になってるんですけど、久喜市のある埼玉県の東側の地域は、市立も県立も美術館がないところで、民間でそれをやってしまおう、ていう考えがあるんじゃないかと思ってるんですが。
藤田
それが2010年の前半でね、個人的には2010年の一番は「あいちトリエンナーレ」だと思っています。あとで映像も見せてください。
タムラ
はい。
藤田
で、インタビュアーを代わります。引き続き、前回インタビューをした横永さんがこの5年間について伺います。
タムラ
了解しました。
「ワークショップ/100gをつくる」栃木県立美術館(栃木県宇都宮市) 2009年8月22日
「若手芸術家支援事業助成金」交付決定を伝える新聞記事(下野新聞 2010年9月28日付)
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