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篠原資明インタビュー


「言ノ葉ノかげ 二人の詩人の二人の美術」会場風景(京都芸術センター, 2005)




遠州まぶさび展フライヤー

作家として


ハガ
ところで、先生はご自身も詩人でいらっしゃるのですが、美術作品も制作されるとうかがいました*1。2005年には、京都芸術センターで佐倉密さんと二人展をされていましたね。今度の10月にも長浜のほうで展覧会をされるということなんですけれども。

篠原
「遠州まぶさび」展かな?京都大学と滋賀県長浜市が「風雅のまちづくり」ということで提携しているんだけど、その研究教育の拠点として四居家という古い住宅がそのまま研究所になってるんです。そこにギャラリー・スペースみたいなところがあって、そこでやります。「アートインナガハマ」というイベントが10月3、4日に開かれるんだけど、「この機会にやりませんか」と言われたので。

ハガ
この展覧会のテーマは、長浜市出身の小堀遠州ですね。彼は江戸時代の藩主で、茶人や作庭家、建築家としても知られる文化人です。先生は遠州のどのようなところに興味をもたれているんですか?

篠原
僕はローマでしばらく生活してたんだけど、その時にベルニーニというバロック時代のアーティストの、ローマでの存在の大きさに気付かされたわけです。ローマの各地に彼の手による噴水がたくさんあるし、ヴァチカンのサン・ピエトロ広場も彼が設計しているんですよ。


ハガ
バルベリーニ宮の設計もそうですね。偉大な人です。

篠原
京都でベルニーニに匹敵する人は誰かな、とふと考えたときに浮かんだのが遠州なんですよ。二条城の二の丸庭園も彼の手によるし、南禅寺でもいろいろ仕事を残しているし、もちろん大徳寺の孤篷庵もそうだしね。彼はとにかくたくさんの美の精髄を京都に残してくれているのに、どうして京都はもっとそれをアピールしないのかなと思ってたんです。まあ、京都には遠州だけじゃなくていっぱいアピールできるものがあるのかもしれないけど。


ハガ
たしかに京都に住んでいてもあまり名を聞きませんよね。でも、知らないうちにたくさん目にしている気がします。

篠原
そうでしょう。しかも「さび」っていうことをテーマにやっていると、遠州の美的境地の「綺麗さび」っていうのも面白いなと思って。千利休や利休の先達は、やっぱり「ひえさび」派なんですけど、ところが遠州になると、だんだん時代も安定期になってきたということもあって、平安的な王朝美学の要素もうまくとりこんでいるんです。利休みたいな厳しさはないけど、時代に合わせて変わっていくということも彼は考えていたみたいで、ある意味でちょっとポスト・モダンなんですよ。


ハガ
なるほど〜、面白い見方ですね。

篠原
「ひえさび」がアヴァンギャルドのモダンだとすると、「綺麗さび」っていうのはポスト・モダンで。茶の湯の研究者で熊倉功夫さんっていう大先生がいるんだけど、その人も遠州はポスト・モダンって言ってるんですよ。僕の「まぶさび」についてもマイケル・マルラさんが、ポスト・モダンさびって呼んでくれてるんですけど*2(笑)。だから手前勝手な解釈すると、遠州はポスト・モダン仲間。
遠州ってけっこう小ネタが面白くって、インスピレーションもらえるんですよ。


《超絶短詩オブジェ・サイコロ》(京都芸術センター, 2005)


《百人一滝にしずく》(「百人一滝展」, 2004)


ハガ
今回は「マブサビット」との共作ということなんですけれど、「マブサビット」というのはどなたでしょう?

篠原
元々は架空のキャラクターだったんですけど、アート・グループみたいなもので、内幕をあかすと京大の学生たちが有志で参加してくれています。遠州からなにか発想を得て、僕にとっての三原色ならぬ三元である透明素材・反射素材・紫を使って、「まぶさび」の理念に基づいて制作してもらってます。

ハガ
どんな展覧会になるか、楽しみですね。


*1 詩人としての篠原は、方法詩という詩作を提唱し実践している。これは、俳句等の伝統的な定形詩とも、型を設けない偶成詩(自由詩)とも違う詩作方法で、自ら新たな詩型を設定し、その型に則って詩を詠むというものである。方法詩の一種として、超絶短詩がよく知られる。

*2 Michael F. MARRA(UCLA), “Aesthetic Categories : Past and Present” in Whither Japanese Philosophy? Reflections through other Eyes(UTCP Booklet 11), PP. 56-59
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/publications/pdf/UTCPBooklet_11_039-059.pdf

 

 
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