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篠原資明インタビュー
a《まぶさび鏡2》(京都芸術センター, 2005)


Motoaki Shinohara Interview

篠原資明。1950年生まれ。哲学者、詩人、批評家、作家、まぶさび庵主宰。
80年代から現代にいたるまで、日本の現代アートのコアな部分に関与し続けている。
近年のアートを取り巻く環境に対して「お祭り騒ぎ」と警告を発し、「まぶさび」という独自の美的理念を提出する。はたして、そのこころは?
現代アートで哲学する人に、昔話も交えながら語っていただいた。

interviewerハガミチコ



まぶさび?


ハガ
篠原先生は「まぶさび」という概念を提唱されていますが、これはどのようなものですか?

篠原
日本の美学を語る時に「○○さび」っていうのがあるけど、現代だったら「まぶさび」かなと漠然と思ったのがきっかけでね。二十世紀通して、透明な素材や反射する素材、あるいは光そのものが周りの環境に氾濫するようになって、それを「さび」の心で受け止めると、ある種の美的境地を表せるんじゃないかなということで。「まぶしさ」と「さびしさ」を組み合わせて、それで「まぶさび」と。

ハガ
「まぶ」は「まぶしさ」なんですね。

篠原
デパートとか行ったら、よく鏡のような反射素材と透明素材が相連続するような使い方がされてるでしょう。


ハガ
そうですね、デパートのショウ・ウィンドウとかすごいですね(笑)。

篠原
そういう透き通りの美学とまばゆさの美学、これを両方受け止めるようなものとして「まぶさび」っていうのを考えて、10年以上前から言っています。美的理念というと大げさだけど。


ハガ
伝統的な「さび」については、どのように意識されているんですか?

篠原
直接意識したのは、室町時代の連歌師で学僧でもあった心敬の「ひえさび」という言葉で。彼は「氷の艶」という言い方もするんだけど、これは冷え切った無色透明なものの美しさのことを言っているんです。氷っていうのは動かないけど、水は揺らめいたり変化したりしますよね。だけど水と氷は同じ物。だから、変化するものの中にあって変化しない永遠なるものを理想としたあり方を、心敬は「ひえさびたるかた」とか「氷の艶」と呼んだわけです。心敬の「ひえさび」は、きらびやかな花紅葉の美しさを理想とした平安時代の王朝美学に対して、アヴァンギャルドな美的理念を突きつけたものとして、僕はすごく惹かれている部分があって。


ハガ
さびというと「わびさび」をすぐ思い浮かべるんですけど、もっと前に「ひえさび」というのがあったんですか。

篠原
日本の美学というのは、王朝風の花紅葉の美学と、心敬の「ひえさび」の境地、この両極を揺れ動いてるだけじゃないかなという気がしてるんですよ。「わびさび」の茶人たちは、心敬が掲げた「ひえさび」の境地をそのまま受け継いでるんです。だから「わびさび」の中にも芭蕉のさびの中にも、「ひえさび」の精神は息づいてるんですね。


ハガ
氷の透き通った美しさは、まさに透明素材に通じるものがありますね。

篠原
ただ僕は冷え性だから、冷たいのは嫌だけど(笑)。それで、色が無いのがちょっと寂しいなと思って、紫を「まぶさびカラー」にしちゃったんです。紫っていうのは揺らめく色でしょう。青紫の雰囲気と赤紫の雰囲気ってガラって違うじゃない?その極端な揺れ動きが、紫という色に出てると思うんです。


《まぶさび花・ムベ》(「百人一滝展」, 2004)


《超絶短詩オブジェ》5点(京都芸術センター, 2005)


ハガ
今日お召しになってるTシャツも紫です。

篠原
あと「まぶさびマーク(a)」というのがあるんですけど、これは滝なんですよ。「まぶさび」の中には、「自然を友とする」という考えもあって、ダイナミックな中の寂しさっていうのも含められたらいいなあと思ってるんです。透き通った水の美しさに古代人も惹かれてたはずで、そういう原初的な経験が現代的な素材の中にも生きてるんじゃないかなと。

ハガ
古来からの自然の滝の透き通りの美学と、現代のガラスなどの透明性の美学が繋がっているという理念なんですね。

篠原
ガラスっていうのは昔からあるので、ガラスよりもっと安っぽい素材、プラスチックや、ビニール、ナイロン、ラップなども僕は考えてるんです。とにかく、二十世紀に発明された素材で透明な素材っていっぱいあって、それが小物から大きな素材にいたるまで氾濫していて。ベンヤミンじゃないけど、知覚の無意識みたいな形で、そういう素材の在り方がどこか人間の物の見方に影響してるんじゃないかなっていう気がしてるんですけどね。

 
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篠原資明(しのはらもとあき)
1950   香川に生まれる
10代の頃より詩作を始め、大学時代より同人誌等に発表
1980   京都大学大学院文学研究科(美学美術史専攻)博士課程修了
1984   共訳、U・エーコ著『開かれた作品』(青土社)刊行
大阪芸術大学に勤務(−1989年)
1987   評論集『漂流思考』(弘文堂)刊行(1998年講談社学術文庫)
1988   『芸術の線分たち―フランス哲学横断』(昭和堂)編纂、刊行
1989   東京芸術大学に勤務(−1994年)
1991   評論集『トランスアート装置』(思潮社)刊行
1992   評論集『トランスエステティーク―芸術の交通論―』(岩波書店)刊行
共著『トランスモダンの作法』(リブロポート)刊行
この頃より『現代詩手帖』等で詩の評論を行う
1993   「00-Collaboration 詩と美術展」(佐賀町エキジビット・スペース)に村上隆とのコラボレーション《サイ遊記のなんでもない日》出展
訳書、U・エーコ著『物語における読者』(青土社)刊行
1994   京都大学総合人間学部助教授(1998年−現在、同大教授)
「サンクチュアリ」(セゾン現代美術館)に出展
1995   共訳、E・ルーシー=スミス著『20世紀美術家列伝』(岩波書店)刊行
評論集『五感の芸術論』(未来社)刊行
評論集『言の葉の交通論』(五柳書院)刊行
1996   評論集『心にひびく短詩の世界』(講談社現代新書ジュネス)刊行
1997   『ドゥルーズ―ノマドロジー』(現代思想の冒険者たち25, 講談社)刊行
1998   自らの総合的な活動として「まぶさび庵」を主宰
1999   「まぶさび庵」のホームページを開設
2002   「融点・詩と彫刻による」(うらわ美術館)に河口龍夫とのコラボレーション《詩と鉛と光》出展
『まぶさび記』(「生きる思想」シリーズ, 弘文堂)刊行
2003   「ムラサキまぶさび 篠原資明によるセゾン現代美術館コレクション展」(セゾン現代美術館)開催
2004   「百人一滝展」(京阪錦織車庫82号車両および81号車両, 滋賀)開催
2005   『現代芸術の交通論』(丸善)編纂、刊行
佐倉密との二人展「言ノ葉ノかげ 二人の詩人の二人の美術」(京都芸術センター)を開催
2006   『ベルクソン―〈あいだ〉の哲学の視点から』(岩波新書) 刊行
2008   『芸術/創造性の哲学』(岩波講座哲学07, 岩波書店)編纂、刊行

展覧会企画等
「木と糸のダイヤグラム展」企画(ギャラリー白, 1985), 「風景の軟体構築展」企画(ギャラリー成安, 1985), 「京都アンデパンダン展」賛助(京都市美術館, 1985−87), 「アート・ナウ」選考委員(兵庫県立近代美術館, 1986−88), 「トランス・アート・シーン展」企画(ギャラリー16, 1986-1987),「メタリズム展」企画(スパイラルガーデン, 1989), 「浮遊体展」企画(つかしんホール, 1989), 国際展「ファルマコン」実行委員(幕張メッセ, 1990), 川崎市民ミュージアム構想委員(1991), 「アートまぶさび」(ギャラリー16, 2009)等多数

詩集
『さい遊記』(思潮社, 1989), 『サイ遊記』(思潮社, 1992), 『わるびれ』(思潮社, 1994), 『滝の書』(思潮社, 1995), 超絶短詩集『物騒ぎ』(七月堂, 1996), 超絶短詩集『水もの』(七月堂, 1996), 『平安にしずく』(思潮社, 1997), 超絶短詩集『桃数奇』(七月堂, 1998), 超絶短詩集『摘み分け源氏』(七月堂, 1999), 『愛のかたち』(七月堂, 2001), 詩/エッセイ集『言霊ほぐし』(五柳書院, 2001), 超絶短詩集『玉枝折り』(七月堂, 2002), 超絶短詩集『百人一滝』(七月堂, 2003), 『崩楽』(私家版, 2004), 超絶短詩マンダラ『仏笑』(私家版, 2005), 超絶短詩集『星しぶき』(七月堂, 2007), 『ほう賽句集』(七月堂, 2008)
篠原資明さん 
 



 

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