佐藤美術館「神戸智行展 イノセント・ワールド」展示風景
日本画ってなんだ?日本ってなんだ?
藤田
そこで、おたずねしたいことがあるのです。
今回の展示もそうですが、展覧会会場にヤモリとか河原の石とか置かれてる、つまり神戸さんは絵画だけでなくて立体物もつくられてますよね。
私は日本画って何をさすのか分からなくなりました。
神戸
日本画家の弟子に入って丁稚(でっち)から、という時代ではないので、僕は美術大学に入って先生から学ぶ、という習い方をしました。
学生の間に自分の表現を見つけて行くのですが、学部の2、3年生のとき、何を描いたらいいのか分からなくなった時期がありました。
そこで地元の岐阜でよく遊んでいた生きものだったり、長良川だったり、といったような自分にとって身近なモノや自身の足元に目を向けて、自分の思いや気持ちを見つめ直して描いて行こうとはじめたんです。
絵を描くだけだったら「日本画とはなんだ?」なんて意識をしなくてもいいのでしょう。
藤田
ええ。
神戸
この「日本画」とはなんだという話は、何十年も前から論議されています。
歴史的に「日本画」という言葉の意味を語る上では、フェノロサや岡倉天心の話からはじめていくことになりますが、僕は今この時代にこの「日本画」という名の持つ意味を考えるより、もっと大切なことがあると思うのです。
僕自身は、先人達の残したモノを学び、現代(いま)というモノから目をそらさず、表現していくことが大切だと思っています。
この国の先人達が残した思想や作品は、とても素晴らしいモノが数多くあります。
また、現代にはたくさんの問題を抱えていること、と同時にたくさんの表現方法が存在しています。
現代(いま)を生きる自分が、過去から学び、現代(いま)に目を向けいま必要とする表現をすることが、未来へ繋げていくことになると思います。
そういった意味で、自分のできる範囲で少しづつ表現をひろげていければ、その結果として、できあがったその作品が今までにない作品となることと思っています。
藤田
基本的には、日本画の画材をつかったものであれば、平面つまり絵画には限らないという意味でしょうか。
神戸
う〜んっ、そうですね・・・。
藤田
ごめんなさい、変なこと聞きました(笑)。
神戸
僕は2008年からアメリカのボストンに一年間留学したときに、たくさんの日本の美術を間近で見せて頂くことができ、日本美術の質の高さを感じることもできました。
また海外で住むということで、改めて日本というモノを見つめ考えるようになりました。
日本の独自の思想や文化を見つめ直し、さまざまな問題を抱えた現代において、とても大切なものだと考えるようになりました。
そして現代ということも、日本画についても、うまく打ち出せるのでは、と思ったのです。
藤田
文化庁在外研修員として選んだ行く先は、ニューヨークやベルリンではなく、なぜボストンだったのですか。
神戸
ボストンはアメリカでも古い田舎町で、アメリカで最初に発展した街になります。
ヨーロッパの文化を感じさせる場所が数多くあります。
そしてボストン美術館は、岡倉天心が東洋美術部門の学芸部長をしていたので、当時、横山大観や菱田春草が留学していました。
そういった関係で日本の美術がたくさん収蔵されていて、作品も見たいし、彼らが何を見て何を考えていたのかも知りたかったんです。
また、ニューヨークまで飛行機で1時間ほどで行くことができ、そこでは最新のアートやカルチャーをたくさん見ること知ることができます。
藤田
ボストンの自然はどうでしたか。
神戸
日本のように、流れ移っていくような四季があるわけではないですが、四季の変化はあります。
寒い地方なので紅葉はとても綺麗でしたが、ぱっと鮮やかな紅葉になったと思ったら、すぐに散ってしまっていました。
アメリカの自然は、広大なスケールで迫力がありました。
湿度が低いせいか乾燥しているため、日本とは違った自然がありました。
改めて日本の自然には。この湿度が育んでいることに気付かされました。
藤田
例えば今回の展示で「アニメーションをつくる」というような新しい展開は、そういった経験を踏まえて意識的にされているのでしょうか。
神戸
いろいろなものに目を向けると、これまで当たり前だと思っていたことがあたりまえじゃない、価値があったりかけがえのないものなんだ、と気付くようになったんです。
経験や新しいことをしていくような、自分自身が変わって行けば、きっと発見するものも増えて行くと思うし、何か変わって行けるとも思っています。 |