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原井輝明インタビュー


家族がいて、制作をして



《廃虚の花2》29.1×29.1cm Oil on canvas 1997 撮影:早川宏一
藤田
原井さんにとって「理想」って、あるんですか?

原井
作品が売れて生活できる、というのは理想ですね。
美術の先生になろうとも思っていたことがありました。
でも浪人して本格的に美術の勉強を始めたときに、「絵描きは、こうでなければいけない」というプロフェッショナルになることを前提として指導を受ける間に、すっかりその気にさせられました。
結局9年間、学生をやっていましたから、奨学金の返済が60歳まで残っているし、親にも面倒を掛けたと思っています。


藤田
大変ですね、60歳って、子どもだってまだ学校に行っているかもしれないのに!

原井
本当に勉強したかったら「自分でがんばってね」と、既にうちの子には言ってるんですよ(笑)。


藤田
東京にいると、あまり子どもがいる作家、アーティストって見たことないんです。
だから制作して、家族や子供がいて、って出来ているのがすごいと思う。
やっぱり、どっちか、になってしまうじゃないですか。

原井
僕は全然関係ないバイト、お金のために働くこともできる性格だと思うんです。
そこそこのお金があって、そこそこの生活をして、時間が過ぎて行くような人生もあり、だと分かってはいる。
でも「ものをつくってないとだめだ、普通にお金を稼いでる場合じゃない!」という気持ちが生まれて来るんですね。

藤田
家族が出来ると、人って「守り」に入ったりしますよね。

原井
もちろん家族のためにがんばろう、というのはあります。
だけど収入が少ないけど今制作しなければダメだと思い、特に今回小島びじゅつ室での展示のための追い込み2カ月は、仕事をしていたらできなかった、制作づくめの時間でした。
とはいえ、ずっと作家としての自分のために時間をつかうこともできないし、家族のために働かなくては行けないのは確かで、迷います。

藤田
迷う、ですか。
この数年、アートマーケット重視の現代美術業界を見ていると、特に若い作家は売れるような絵を描き、ギャラリストは売れる絵、見ても理解しやすい絵を求めているのが現状です。
描きたいという絵を描けること、やりたいことについて迷えるっていうことは幸せだと思います。

原井
ギャラリストやお客さんに言われて、売れる作品をつくるというのは、僕からすればアルバイトで頼まれて作業をしているのと同じ、つまりクリエイティブじゃないと思うんですね。
だからこそ、僕は絶えず迷って作品をつくっていたい、創作していきたい。
そうでなくても、東京から地方に引っ込んだことで、商業ベースの現代美術界のふるいから落ちて行ったような見方もされますからね。


藤田
そんな言い方、いやですね!

原井
売れなくても、自分のペースで絵が描ける、制作できるというのもありがたいことです(笑)。
地方にいることで自分の創作ペースが保たれているとも言えますね。


藤田
私が原井さんだったら、学歴をふりかざして、地元の偉い画家みたいな安定した扱いをねらうけれど(笑)、原井さんはそうじゃない。
いろいろ悩んでる行為があるから、制作もできるんだろうし、やりたいことをやっているという芯が生まれるんだ、と聞いてて思いました。

原井
それはあるかもしれない。
でも僕は先読みは苦手だし、売れると言われてもそのスタイルを続けられる自信もないです。


藤田
そういう正直さだから、見えるけど見たくない、答えを出したくないぼんやりした表現をするんですか。

原井
ラディゲという小説家がいますよね。
彼の作品を読んで「目に見える行為=表面的な裏切りが悪か、見えない心=本質的な裏切りが悪か」という投げかけから「目に見えるモノ」と「目に見えないコト」の存在を知ったのですが、それ以来、見えるものと見えないものが興味の対象となったんです。
だから見えるものを見えないように、あるいはその逆で、絵を描いている部分はあります。


藤田
わざと、ですか?

原井
子どもを描いているからといって、子どもを描きたかったのではなくて、その背景を見てほしいと思っていたり、はっきり描いているから物をよく見ている、描いてないから見ていない、ではないんです。
逆にはっきり描いたりすることで、世の中の人たちに気付かせることもできるかもしれないけれど、見えることに満足して本当の意味では見ていないと云うことにも繋がるのではないでしょうか。


《セイタカアワダチソウのある風景 3》91.9×123.0cm Oil on canvas 2003 撮影:早川宏一

 

 
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