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六本木クロッシング2007:未来への脈動




速報!!
六本木クロッシング2007


TEXT 藤田千彩

4人のキュレーターによる10月12日プレス向け記者会見のようす
森美術館が開館以来3年に一度、定期的に行っている「六本木クロッシング」。
今回が2回目、日本をベースに活躍している作家を紹介するという目的の展覧会だ。
私は「若い作家を中心にした展覧会」だと思っていたが、そうでもない。
現代美術ばかりだと思ったが、そうでもない。
“そうでもない”だらけなのは、年代やジャンルを越えた展覧会だから。
前回は57人の作家が展示を行ったが、今回は36組。
今回は天野一夫(美術評論家・京都造形芸術大学教授)、荒木夏実(森美術館キュレーター)、佐藤直樹(ASYLアートディレクター)、椹木野衣(美術評論家)という4人のキュレーターがそれぞれ30人ずつくらい選び、討論を重ね、結果的に絞られていったという。

A
B
C
D
 
A.小粥丈晴
《泉》2004年
Courtesy: HERMES JAPON, TARO NASU, TOKYO
B.できやよい
C.冨谷悦子
D. 岩崎貴宏
《Reflection Model》2001年
展覧会入口に向かうエスカレーターのところに、小粥丈晴の作品(画像A)がある。
オルゴールとしても機能する立体作品は、島のような形をなしている。
交差点を意味するクロッシング、その入口に私たちの住む島がある、ということだろうか。

まず最初の部屋には吉野辰海の立体や、ただ一人物故作家である立石大河亜のペインティングがある。
若手ばかりの展覧会、という意識をぶちぬかれる。

キュレーションを担当した荒木夏実によると「今も作品を見て、興味深いものを作っている作家」を選び、天野一夫によると「若手の作家のカタログを作るためではない」展覧会なのだ。

そしてできやよい(画像B)の部屋。
実はこの部屋は、さらに奥にある榎忠の作品を上から眺めるための台の1階部分にある。
カラフルな点描は、いつ見てもどきっとさせられる。

榎忠の作品は、豊田市美術館で現在展示中のものより軽いらしいが、4トンあるという《RPM1200》のシリーズ。
できやよいの作品が1階で展示している台の上から、俯瞰することができる。
尖った立体物がたくさん並んだ様子は、大都会東京のようでもある。

そして次の部屋。
冨谷悦子のエッチングが並ぶ(画像C)。
出品作家で唯一の版画作品とのこと。
細かく刻まれた画面のせいか、モノクロでありながら、ひとつひとつを眺めると、にぎやかな作品が多い。
隣にある原真一による大理石の彫刻作品も細やかすぎて面白さを漂わせている。

さらに奥へ進む。

目の前に見えるのは岩崎貴宏の作品(画像D)だ。

E
F
E,F.岩崎貴宏
岩崎の作品を含む部屋は、ぱーんと突き抜けて、しかも明るい部屋だ。
岩崎の作品は2種類ある(画像E)。
金閣寺のような日本の建物を上下(あるいは天地?)くっつけた作品は、プラモデルをちゃんと完成させたような満足感が二倍に感じられるだけでなく、シンメトリーの美しさを再確認させてくれる。
(一応断っておくが、以下書いている岩崎の話は「美術手帖」の取材として聞いたものであるが、その内容は必ずしも「美術手帖」に掲載されるかされないか、この原稿を書いている段階では不明であり、ダブっていても「美術手帖」編集部に事前に断りを入れているので読者の方は誤解なきよう、という前提のもと)シンメトリーといえども、間逆に作ってしまうのは間違いで、鏡像として作っているので大変なんだそうだ。
もうひとつの作品は、タオルなどの上に塔が立っている(画像F)。
としか思われないのだが、塔はタオルのひとつの繊維をひっぱってきて、瞬間接着剤で固めてあるという、なんとも繊細な作品である。
美術館としては神経をすりへらすのではないだろうかと心配になるほど、そんなタオルや靴下が無造作に床に置かれている。
「通り過ぎる作品ではなく、なんだろうと見てもらいたい作品を作りたかった」と、にこにこしながら岩崎は語った。

向き合うようにあるのは、田中信行の黒い立体作品。
漆で光る作品が、壁に堂々と張り付き、とても静かな緊張感を生み出している。
過去に資生堂ギャラリーなどで見たことがあるが、今回の作品はかなり威風堂々としているようだ。

それらと向き合っているのが、四谷シモンの人形群。
今回展示されているのは、私が過去に見た四谷の作品と比べて、わりと小さい作品が多い気がした。
天井が高いせいだろうか、展示空間が広いせいだろうか。

奥には東恩納裕一の照明によるインスタレーション作品。
まぶしいが、四谷シモンの人形と同じ部屋だと、明るさがさほどでもないのが不思議だった。
G
さらに奥に進むとき、吉村芳生という作家によるドローイングが両壁に並んでいる。
吉村は、キュレーションを担当した椹木野衣によると「日本の美術史に乗る人と乗らない人がいるならば、乗らない=『単独者としての表現者』」の一人らしい。
椹木が山口県の県展の審査員をしたときに、「何も描く題材がないので毎日自画像と新聞紙を模写している」という吉村に出会ったことから、今回の出展が決まった。
自画像(画像G)は、毎日一枚ずつ描かれ、一年分が貼られている。
画像はないので、実際見て欲しいのが「新聞紙の模写」。
新聞紙の見出し、本文、写真、イラスト、広告といった、すみずみまで鉛筆で克明に描かれているのは、細密画の域を超えているし、そんな模写があるのかと目からウロコになるはずだ。

この部屋の奥、小林耕平の映像作品(画像F)が掛かっている。
そういえばいっときより今回は、映像作品が少ない気がした。
小林の作品は、今回ならリンゴやボールといったモノを主体にして、何気ない日常をビデオカメラで切り取っている。
H
I
 
 

G.吉村芳生
《ドローイング新聞:毎日新聞(1976年11月6日号)》1977年
H.小林耕平
《2-6-1》2007年
I.宇川直宏
《A Series of Interpreted Catharsis Episode1: Hurricane Katrina/Florida
2005.8.25》2007年
Courtesy: YAMAMOTO GENDAI
さらに奥、飴屋法水の立体インスタレーション。
大きなマッチ棒が床に横たわっていた。
マッチ売りの少女は結局どういう結論だっけ、と思い出すのに時間がかかった。

さらに進むと、内山英明が壁に貼られている。
写真の世界ではどうなのか分からないが、アートという括りには珍しいものとして目に入るだろう。

向かいの部屋は、宇川直宏の体験型の作品。
台風を体感できる、という機械の中には、世界各国の紙幣が舞っている。
雨ガッパのような服を着て、中に入ることができる。(画像I)


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六本木クロッシング2007:未来への脈動

ものアート展示
森美術館
(東京都港区)
2007年10月13日〜2008年1月14日

協力会場:牧野伊三夫の作品配布
     市内店舗10ヶ所
「街じゅうアートin北九州2007 ものづくり・ものアート」
 NPO法人 創を考える会・北九州
http://www.sohkai.or.jp/info_0707.html
 
著者プロフィールや、近況など。

藤田千彩(ふじたちさい)

1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がけていた。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」「美術手帖」などでアートに関する文章を執筆中。
chisaichan@hotmail.com




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