藤本由紀夫プロデュース「仕掛けられた日常」
サウンドアーティスト藤本由紀夫がプロデュースしたプロジェクトは「仕掛けられた日常」と名づけられ、市街地内に今も残る旧取手宿本陣と、戸頭終末処理場にほど近い宮ノ前ふれあい公園を中心に作品が展示された。
旧取手宿本陣での藤本由紀夫の展示は「ROOM-honjin」と名づけられている。本陣の建物の中のそれぞれの部屋にキーボードが置かれ、それぞれ違う和音を奏でている。部屋を移動して別の部屋に足を踏み入れると、シームレスに音が変化していき、完全に中に入ると聞こえる音が全く変わってしまう。まるでそれぞれの部屋が別々の空間になったかのような感覚を味わうのだ。
また、建物の中には、併せて三好隆子による、踏むとジャバラの原理で音を出す石「Cry Stones」、中に入ると音が遮断された別空間に誘うスポンジの作品「White
Surround」が展示され、ちょっと音を操作することで別の空間が立ち現れるようなおもしろさを感じた。
一方、宮ノ前ふれあい公園では、藤本由紀夫による「GARDEN-miyanomae」と名づけられた展示が行われた。
これは、取手市民とのワークショップで作られたリートフェルトの椅子「red & blue」25脚を毎日配置を変えて設置するというもので、来場者は、思い思いに椅子に腰掛けて、周囲の風景を眺め、音に耳をすます。
リートフェルトの椅子は座面が後ろに若干反り返っているため、座る人は前方よりもむしろ空の方に視線を向けるようになる。
そうすると、自分の周囲360度あらゆる方向から様々な音が耳に飛び込んでくる。
−遠くを走る車の音、公園を吹き渡る風の音、鳥のさえずり、そして人々の話し声。
そうして様々な音を聞いているうちに、今自分がいる公園の中の空間を強く意識するようになっていく。一見何もないように見える公園で、実に豊かな営みが行われていることに気づく。
そして、椅子から離れ、公園全体を眺める。すると、毎日変えるという椅子の配置自体が何やら旋律を奏でていて、公園に息づく様々な音たちと共鳴しあうように感じられるのだ。
一方、戸頭終末処理場では、取手市民である根本凡さんのアイデアをもとに藤本由紀夫が監修して行われたプロジェクト「取手の坂には音がある」の展示も行われた。
取手の街にはいたるところに坂があるのだが、その坂道の脇の溝を流れる音を採取し、終末処理場のエアレーションタンクの中で響かせるというものだ。
室内の四隅に設置されたスピーカーに近づいて見ると、水が流れる(意外に)澄んだ音が流れている。
そしてタンク内には藤本由紀夫の「EARS WITH CHAIR」が設置されており、椅子に腰掛けて両脇の筒に耳をあてると、水の音がより大きく頭の中で響く。まるで水の中に潜っているかのような感覚を覚える。
かつて汚水で満たされていたタンクの中で感じる、水中の感覚。日常の何気ない要素が形を変えることで起こる非日常への転化というアートの醍醐味のひとつを、専門のアーティストではない市民発案による試みから確かに感じ取ることができた。
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