5/27〜28 塩田大成
最後の週は、塩田大成のインスタレーション「exp-R」が展示された。
室内は一見がらんどうの空間に見えるが、中に入ると、不意に足に何かが引っかかる感覚を覚える。
床を見ると、黒い床板の隙間に黒いゴム板とアクリル板が出っ張るようにびっしりとはめられているのに気づく。
塩田大成は主に空間デザインを手掛ける。彼の作品は、自分の意図した空間を作り出すための「experiment」(=“実験”)なのだという。
このゴムの板とアクリル板が設置された中を歩いてみる。
板と板の間に平行になるように足を入れれば板を踏まずにすむが、普通に歩こうとすると、どうしても板を踏んでしまうことになる。
ゴム板を踏むとグニャっと柔らかく曲がり、着地点を微妙にずらされる違和感を、アクリル板を踏むと、硬くてなかなか曲がらず、板の断面が足の裏に当たる違和感を感じ、イヤでも板のことを意識せざるをえない。
普通の床が、ゴム板とアクリル板をはさむことによって、全く印象を異にする床に変貌を遂げ、その上を歩くという僕たちの「experience」(=“経験”)も特別なものになっていく。
そして、歩き終わった後も、足の裏には普通に歩こうとした意図を微妙に外された違和感が残り続け、このHATの室内が特別な空間のように感じるのだ。
また、この作品の中を歩く人々を傍らから見ていると、それぞれの人の行動が皆違って見えるのが興味深い。
板を踏まないように忍び歩きをする人、板が外れるのを律儀に直していく人、板に足が引っかかると悪態をつく人…
そんな仕草の一つひとつから、その人の人となりをも浮かび上がらせるのだ。
その先の可能性に刮目せよ
3人の作家による3つの展示は、作品の種類も会場の使い方も異なる。
それは、会場の可能性を試すようでもあり、「週末芸術」の可能性を試すようでもある。
率直に言えば、展示にもまだまだ試行錯誤の跡が散見されるし、向上の余地もまだまだ残されているように思われる。
しかしだからといって否定的に感じたわけではない。
作家にも運営にも新しいことに挑戦しようとする熱気を感じたし、この空間で他の作家が展示したらどのように見えるだろうか、という今後への期待も強く抱かせた。
また、印象的だったのは、どの展示においても多くの人が集まり、交流の輪が生まれていたことだ。
作家や美術関係者、愛好家、そして通りすがりの人まで、実に多種多様な人々が集まり、室内やオープンテラスでは様々な話に花を咲かせていた。
これこそが、この「週末芸術 Vol.01」のもっとも大きな成果であり、この光景を見ていて、栃木に住み現代美術を愛する者として、まさにこういった場を僕は求めていたのだと実感した。
この「週末芸術」は、10月に「週末芸術 Vol.02」として、今回同様に3週連続の展覧会の開催が予定されている。今回のVol.01の出展作家はすでにある程度の実績を積み上げている作家が中心だったが、Vol.02では若手作家の他、市内の現役の学生の出展なども予定されているという。
このHATという特色ある空間の可能性と、まだ見ぬ若い作家の可能性がかけ合わされるとき、どのような化学反応が起こるのか、注目していきたい。
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