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渡邊トシフミインタビュー

制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE


日常の素材


福田
私は今回BankArtNYKで見せてくれた作品は、渡邊さんの作品の中でも、とても大切で、現実味があって、かといって深刻すぎない、のびのびとしていてとても好きです。素直に自分を出していると思いました。

渡邊
美術家にとって常に評価は重要ですが、今回はいいわけせず、変にカッコつけなかったことが良かったと思います。
もっと手の込んだことをやれたし、色気をだしてもよかったのですが(笑)どれもやめにしました。この現実的な状況、リアルが今の自分にもほしかったのです。
もう一度自分自身を試しました。改めて良いものは良い。悪いものは悪いという結果や判断力を得たと思います。

福田
その時に、見る人への演出や効果というのはどのようなものだと思いますか?

渡邊
当たり前のことですが、一般のお客さんでも関係者でも、常に斬新で新鮮な作品、表現を提供できたら僕は最高だと考えています。
美術家として鉄板ネタ(代表作品)は必要ですが、常に展開し続けるスタンスで今後も活動していきたいと思います。予測不可能な作家として生きたいです。

福田
シンプルに、良いもの悪いものとはどういうものでしたか?

渡邊
簡単に言ってしまえば、ウケが良いか、悪いかみたいなことです。
そのために作品を制作、発表するわけではありませんが、お客さんが見ている視点が重要だと僕は思います。
何に興味を抱いてくれるのかという点です。当然会期中まったく触れられなかった作品、演出は失敗だったと認めざる得ないと思います。良いアイディアはやっぱりレジデンスの作家もお客さんも素直に良いね、面白いねって評価してくれます、喜んでくれます、共感してくれます。ある意味美術家で良かったと思える瞬間ですよね。
この快感を得ることが生きがいです。もちろん自分が何を伝えたいのかが前提です。僕はどれだけ表現の引きだしを多く持つことができるのかということです。
とくにインスタレーション作品はプロセスが大事で、そこに感動するかどうかだと確信しました。


福田
レジデンスで制作していた作品について伺います。
一番印象に残ったのは、ポテトのカップを連ねて蛇のようにしている作品、飲み終わったペットボトルを並べている作品などの、生活の消費から出来ている作品でした。それらの作品について教えてください。


制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE

渡邊
皆さんとてもそれが印象に強いみたいです。「ポテトの人だ。」「コーラの人だ。」と言われます。
正確に答えると、ポテトの作品はあれが完成形とは言えません。ペットボトルの作品は作品ではありません。
けどこの二つは今回僕のレジデンスを語る上で一番わかりやすいものかもしれませんね。きっかけは間食です。お金がないので、ハンバーガーは買えなくてポテトばかり買っていたし、コーラは僕が世界で一番好きな飲み物です。
ほぼ毎日飲んでいます。ペットボトルは最初から意図的に捨てずに取って並べていきました。
滞在記も書いていたのですが、それとは別に僕がスタジオに来た日の証として置いていこうと初日の段階で決めていました。レジデンス生活の物体記憶ですね。
ポテトのカップは、素材として最初お菓子の空き箱などいろいろ捨てずに取っていた中の一つがポテトのカップで、そこから生まれたアイディアです。
ただ重ねていただけだったのですが、横にして地面に置いて試行錯誤していたら、丁度、蛇のようにカップとカップがうまく間接できていることを発見しました。単純なことでしたが、気付いた時うれしかったことを覚えています。
これから完成形として、綺麗なサークルとしてカップを繋ぎ合わせたものを展示したいkuフで、まだまだ道のりは長いです。あと何十個買って食べればいいのかわかりません。
もちろんどちらも他人のものではなく、自分がレジデンス期間に買って食べたことに意味があります。


福田
あと、一緒にレジデンスをしている人達からもらったものを、サッカーのように卓上に構成している作品もかわいかったです。

渡邊
作業台はレジデンス期間中、常に使用していたものでもあったので、作業台自体を横に倒すか、ひっくり返してインスタレーションにしようと考えていたのですが、この期間に出会えたすべての方への感謝の気持ちとして、何かできないものかと考え、頂いたもので展示空間に構成しようと思いつきました。
丁度ワールドカップの最中でもあったので、あの様な展示になりました。


福田
今回から、マスキングテープを多用していますが何故ですか?
あとドローイングもありましたね。彫刻をずっと作ってきて、今回から絵を描く事についてどのような意識をおもちですか?

渡邊
はい。マスキングテープは美大生にとって身近な道具の一つですよね。僕もマスキングテープにはお世話になりました。
きっかけは3年前までさかのぼります。美術の搬入搬出、設置展示を請け負う会社でバイトをしていたのですが、そこでプロの仕事を見て思いつきました。とくに平面作品の設置にはマスキングテープは必須で、その設置工程が面白いと思いました。会社の方は普通に仕事として使用するけど、僕はそれが仕事ではなく作品や表現に活かせないかと考えました。
日常生活はアイディアの宝庫です。常に考えていてます。そのアイディアの一つにマスキングテープがあって、今回のレジデンスで初披露できました。
なので作業用のマスキングテープを使用しています。そこにこだわりたいですね。理由は単純です。そもそも絵画志望だったこともあるし、彫刻作品を存分に制作できる環境にいるまでは、存分に彫刻作品だけを制作しようと決めていました。
大学のアトリエ環境は最強です。今はアパートです。無理せずやれる範囲で制作しています。当然、アパートの環境で大学にいた時の様な制作はできません。
まず作業音だけで、部屋を追い出されますよね。なので必然的に、平面作品は多くなります。ドローイングは学生の頃から描いていましたし、平面作品もタイミングという理由です。
今年から本格的に描いていこうと思うので、これからどんどん展開して進化すると思います。

 
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