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渡邊トシフミインタビュー

 
美術家・渡邊トシフミの<彫刻>
BankArtAIRプログラム2010スプリングオープン参加作家、渡邊トシフミへのメールインタビュー。


美術家、渡邊トシフミに最初に会ったのは2008年、目黒区美術館区民ギャラリーでのグループ展の時だった。
そのときはまだ鉄を素材に彫刻作品を制作していた渡邊が最近はどうしているのかと思い、連絡を取ってみると鉄から離れて制作しているという。
2010年3月、所沢で渡邊にポートフォリオを見せてもらい、いろいろと雑談をする中で見えてきたのはアーティスト誰しもが抱える「生活と制作」という一つの現実。
特に大学から離れて以降の彼の作品には、まだ安定していない、自らとの折り合いのつけ方を探しているような作品という印象を受けた。
3月に会った時の渡邊は、確信を探して地固めをしようとしている段階だと思った。
BankArtNYKのレジデンスプログラム第一期に参加すると聞き、そのレジデンスの様子を取材させて欲しいと申し出た。
ある一人の人間の、変わりつつあるもの、何かがシフトしつつあるもの、その第一歩を垣間見れるかもしれない。それを見てみたいという期待からだ。

4月。会期途中に訪れたとき、彼は丁寧に自分の作品と、周りのアーティストの紹介をしてくれた。
制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE
「お金が無い」。そうはっきり言う彼は滞在制作の苦労について楽しそうに話してくれた。楽しそうに話すのは、その苦労の先に、沢山の人の助けがあって、その交流がレジデンスを何より楽しいものにしていたからであろうし、何より製作に没頭できる喜びによるものだろう。
渡邊の空間には、2008年に鉄を使っていた彼からはイメージできない彫刻が展開されていた。それはどれものびのびとしている印象を受けた。
そして、スタジオオープン展ではひとつの結実した空間を見せてくれた。

INTERVIEWER 福田末度加

日常生活と美術、日常生活と彫刻


福田
渡邊さんは大学では彫刻科で鉄を専攻されていたとの事ですが、その理由はなんでしたか?

渡邊
高校2年の夏に美術家になることを決意しました。
予備校時代は絵画専攻でしたが、彫刻は独学では難しいと考えた結果、大学では彫刻を学ぼうと判断して彫刻専攻を志望しました。


福田
鉄を素材に選んだのは何故ですか。

渡邊
彫刻出身の学生ならわかると思いますが、大学を出てとくに制作ができなくなるのが鉄などの素材です。
理由は専用の施設(アトリエ)やガスや機械や取り扱いの免許がなくてはいけないこと等いろいろです。
ある意味大学でしか扱えない素材で彫刻を自分なりに学ぼうと思いました。

福田
鉄を素材としていたときの作品のコンセプトを教えてください。

渡邊
素材研究です。
鉄はなんでもありの素材です。自分が思い描いた形を生み出すことができる。
鉄はその存在だけでも魅力があります。素材負けする危険もあります。
私が在籍していた大学は鉄を扱う教員が多かったので、教員と自分との比較を意識していました。
ある意味では狭い業界です。人間が扱える技術には限界があります。単純に作風がかぶることも問題です。
とくに彫刻は物理的な要素も大きいですからね。また世間では馴染みがない素材なので面白いです。素材を選んだ理由が理由だから、とにかく習作から作品までやりたいことをやった、試したいことは試しました。
もちろんまだやりたりない気持ちはあります。鉄はいじり飽きません。鉄を通して、彫刻作品とは何か、空間構成力を自分なりに掴みたかったのが一番の課題でした。


「Independence」 2007 鉄 630×760×760mm
福田
大学という特殊、恵まれた環境でこそできることだということですね。

渡邊
むしろそれ前提で学部の一年生の時から意識して学びました。ずっと大学にいるわけないですよね。
また彫刻に限らず、美術、芸術という領域で、いろいろな可能性を模索していました。
映画、演劇、写真と、各分野の作家の卵の集まりが美術大学ですからね。
自分の才能が一番好きな美術とは限らないのです。結果として僕は美術だったので、美術家になりました。


福田
鉄を使用していた時期につちかった空間構成力は、今回のBankArtNYKのアーティスト・イン・レジデンスプログラムでの作品にどう生きていますか?


制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE

渡邊
今回はBankArtNYK特有の空間における配置の意識です。
どこに何を貼るか、置くかという構成力です。面白い空間にするための要素を考えたことです。
とても単純な意識で取り組んでいます。キャンバスに描いたものは平面であり、あとそれ以外は彫刻、立体だという認識です。壁や床に描いても、壁画であり、床画であって、その空間ありきのものになります。
キャンバスとかで、取り外しができるものはなんでも平面なのです。作家によって空間構成は変わるし、この空間のための絵画作品とかはありますが、基本は変わりません。
僕はアパート暮らしだから、これからも東京にいる以上は簡単には変わりません。徹底的に日常生活と美術、日常生活と彫刻、に向き合うことが必然だったし、向き合った結果です。

 
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渡邊トシフミ(わたなべとしふみ)
http://watakichi.com

1985   新潟県新潟市生まれ
2007   日本大学芸術学部美術学科彫刻コース 卒業
2009   日本大学大学院芸術学研究科造形芸術専攻 修了

個展
2007   「渡邊 トシフミ 個展 LIFE  MAP」 羊画廊、新潟
2008   「渡邊 トシフミ 個展 HOKUETSU BANK SHOW」 北越銀行 沼垂支店、新潟
「渡邊 トシフミ 個展 WAITING ROOM」 ギャラリー山口、東京
「渡邊 トシフミ 個展 RUN UP」 羊画廊、新潟
2009   「渡邊 トシフミ 個展 COMPLEX」(日本大学大学院芸術学研究科 造形芸術専攻博士前期課程 修了展 2009)
第一会場 日本大学藝術学部所沢校舎 美術棟・彫刻アトリエ棟、埼玉
第二会場 日本大学藝術学部江古田校舎 芸術研究所 研究教育・情報センター(分室)、東京
「渡邊 トシフミ 鉄の彫刻展」 燕市産業史料館、新潟
2010   「渡邊 トシフミ 個展 ONE SIDED GAME」 thorn tree gallery、東京
「渡邊 トシフミ 個展 ONTIME」 UPLINK、東京

グループ展・参加展
2006   「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2006」(「脱皮する家」制作) 越後妻有(十日町市、津南町)、新潟
「日芸彫刻10人展日本大学芸術学部美術学科彫刻専攻学生による」 埼玉県立近代美術館[一般展示室1]、埼玉
2008   「渡邊 トシフミ 個展 HOKUETSU BANK SHOW」 北越銀行 沼垂支店、新潟
「渡邊 トシフミ 個展 WAITING ROOM」 ギャラリー山口、東京
「渡邊 トシフミ 個展 RUN UP」 羊画廊、新潟
2007   「金沢現代彫刻展’07」 金沢駅もてなしドーム地下広場 他、石川
via art 2007」 シンワアートミュージアム、東京
2008   「横浜トリエンナーレ2008」 クロード・ワンプラー パフォーマンス参加、横浜赤レンガ倉庫 他、神奈川
「第24回 財団法人北野生涯教育振興会 彫刻奨学生作品展」 日本大学藝術学部所沢校舎彫刻アトリエ棟、埼玉
「Permanent Present」 目黒区美術館 区民ギャラリー、東京
2009   「the 6th Art Jam」 ギャラリー山口、東京
「Art News Week」 テレビ朝日多目的スペースumu、東京
「10th SICF」 スパイラル、東京
「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2009」(「コロッケハウス」制作) 越後妻有(十日町市、津南町)、新潟
「GEISAI#13」 KAIKAI KIKI MIYOSHI STUDIO、埼玉
「THE YANASE VILLA ART EDUCATION PROJECT 地域に有する文化建築と文芸・音楽・美術との共演」 柳瀬荘、埼玉
2010   「Bank ART Artist in Residence 2010」 Bank ART Studio NYK、神奈川
「千代田芸術祭3331アンデパンダン」 アーツ千代田3331、東京

受賞
2007   日本大学古田奨学金 受賞
2008   財団法人北野生涯教育振興会彫刻奨学生 受賞

渡邊トシフミさん 
 



 

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