日常生活と美術、日常生活と彫刻
福田
渡邊さんは大学では彫刻科で鉄を専攻されていたとの事ですが、その理由はなんでしたか?
渡邊
高校2年の夏に美術家になることを決意しました。
予備校時代は絵画専攻でしたが、彫刻は独学では難しいと考えた結果、大学では彫刻を学ぼうと判断して彫刻専攻を志望しました。
福田
鉄を素材に選んだのは何故ですか。
渡邊
彫刻出身の学生ならわかると思いますが、大学を出てとくに制作ができなくなるのが鉄などの素材です。
理由は専用の施設(アトリエ)やガスや機械や取り扱いの免許がなくてはいけないこと等いろいろです。
ある意味大学でしか扱えない素材で彫刻を自分なりに学ぼうと思いました。
福田
鉄を素材としていたときの作品のコンセプトを教えてください。
渡邊
素材研究です。
鉄はなんでもありの素材です。自分が思い描いた形を生み出すことができる。
鉄はその存在だけでも魅力があります。素材負けする危険もあります。
私が在籍していた大学は鉄を扱う教員が多かったので、教員と自分との比較を意識していました。
ある意味では狭い業界です。人間が扱える技術には限界があります。単純に作風がかぶることも問題です。
とくに彫刻は物理的な要素も大きいですからね。また世間では馴染みがない素材なので面白いです。素材を選んだ理由が理由だから、とにかく習作から作品までやりたいことをやった、試したいことは試しました。
もちろんまだやりたりない気持ちはあります。鉄はいじり飽きません。鉄を通して、彫刻作品とは何か、空間構成力を自分なりに掴みたかったのが一番の課題でした。
「Independence」 2007 鉄 630×760×760mm |
福田
大学という特殊、恵まれた環境でこそできることだということですね。
渡邊
むしろそれ前提で学部の一年生の時から意識して学びました。ずっと大学にいるわけないですよね。
また彫刻に限らず、美術、芸術という領域で、いろいろな可能性を模索していました。
映画、演劇、写真と、各分野の作家の卵の集まりが美術大学ですからね。
自分の才能が一番好きな美術とは限らないのです。結果として僕は美術だったので、美術家になりました。
福田
鉄を使用していた時期につちかった空間構成力は、今回のBankArtNYKのアーティスト・イン・レジデンスプログラムでの作品にどう生きていますか?
制作年2010(C)TOSHIFUMI WATANABE |
渡邊
今回はBankArtNYK特有の空間における配置の意識です。
どこに何を貼るか、置くかという構成力です。面白い空間にするための要素を考えたことです。
とても単純な意識で取り組んでいます。キャンバスに描いたものは平面であり、あとそれ以外は彫刻、立体だという認識です。壁や床に描いても、壁画であり、床画であって、その空間ありきのものになります。
キャンバスとかで、取り外しができるものはなんでも平面なのです。作家によって空間構成は変わるし、この空間のための絵画作品とかはありますが、基本は変わりません。
僕はアパート暮らしだから、これからも東京にいる以上は簡単には変わりません。徹底的に日常生活と美術、日常生活と彫刻、に向き合うことが必然だったし、向き合った結果です。 |