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作品を「売る」ということ
藤田
日本橋高島屋もそうだし、今年の101TOKYO
Contemporary Art Fair2008でもそうだし、作品を「売る」ことをされてますよね。
売る作品って、展覧会に出す作品と違うのですか?
植松
作品を売るというのは、自分の大事な子供を里子に出すような思いで、かわいがってもらえるような作品を考えます。
あまりやんちゃだったり、臭かったり(笑)、未熟だと、迷惑をかけるし、心配なので。
藤田
でもアートフェアが増えて、売る場所が増えてるにも関わらず、作品を売るということに、まだ抵抗がある作家も多いじゃないですか。
植松さんの作品が売れるって、どういう感覚ですか?
植松
作品が動いて風が吹いたあとに、美術に関わる人の中に作品の空気感が残っていく。
そんな感覚でいます。
個人的には作品が売れないと次の作品が作れないし、少しでも売れると嬉しいです。
僕だけじゃなくて美術界として、作品が売れるということは望まれてきたことですし、売れて社会にコミットでき、美術に関わる人が増えることはいいことです。
また、世界で日本人作家が活躍してるのは素直に嬉しい。
大きく何かが変わりそうな予感もあるので、僕自身も美術界のいろいろな可能性を楽しみにしています。
藤田
いま若い子たちの作品を売る時代みたいですよね。
私個人の話ですが、バンドブームでいろんなバンドの追っかけ経験してる身としては、青田買いのあとのバンドメンバーが行方知れず、になってる状況と似てるなと思うんです。
あと自分が20代前半だったときとか思い出すと、そんなことしたら絶対30代とか大人になっても作品を制作・発表できない気がするし。
植松
まず、制作へのモチベーションが自分の外にあると流されちゃうと思うんで、自分の中にそれを見つけなければならない。
逆にそれがあれば、状況は関係ないんじゃないかな。
ネット時代だし、サーフィンみたいにブームに乗りつづけるスタンスを作品にする作家がいても面白いけど。
美術は普遍的なものだし、作家で生きていくっていうのは、一生のことだと考えてるので、一時的なブームだけではなく、長い目で作家を応援してほしいですね。
藤田
ああ、分かります。
しかも売れてる作品って、顔を大きく描いたような具象ばかりだし。
アートも男も個性あるものが好きな私としては、売れる作品=同じような具象作品ばかりで、マーケットをにぎわせているものがどうでもいい作品ばかりで。
植松
美術は、マーケットが作っていく歴史もあるし、そうでない歴史もあります。
もっと美術って混沌としているものだし。
それに、作家はそういうマーケットが嫌なら、関わらなくすることも、それを作品で変えてやろうという意識で制作することもできます。
いずれにせよ、美術は作品から始まると信じています。
しかし、先に言いましたが2000年頃、アートマーケットが東京中心で、大阪にコマーシャルギャラリーが少なかったころに比べれば、今は活気があって面白いですよ。
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藤田
でも小難しい作品、コンセプチュアルなものはまだ売れないですよね?
去年あたりからアートフェアやオークションになるべく行くようにしてて、コンセプチュアルなものもあるにはあるけど、あまり目立った動きにはなってないようです。
買う人、観客は目が肥えていくのでしょうか?
植松
時代性もあるので分かりませんが、関わる人が増えれば、コアな人も増えていくのでは。
作品を飾って、見た目ではなく、思想的に楽しむ人が多い社会も、ギョッとしますが。
藤田
そうなんですよね、売れるものはわかりやすいものなんでしょう。
いま植松さんはユミコチバアソシエイツに所属されてますが、所属することってどうですか?
植松
ユミコチバアソシエイツは、いわゆるコマーシャルギャラリーとちょっとスタンスが違うんです。
コマーシャルギャラリーのように、スペースをいつも開放して作品の販売をするというのではなく、主にアーティストや作品のマネジメントをすることを業務にしています。
藤田
なぜそういうところに所属することにしたのですか?
植松
2006年、武蔵野美術大学が行っているαMプロジェクトの個展会場に、ユミコチバアソシエイツの千葉さんが見に来たのがきっかけです。
「マネジメントって20年目くらいからが難しいんです」というコトバが印象的で、そんな先まで一緒にがんばるつもりで、仕事を始めようとしてくれている姿勢が、嬉しかったのを覚えています。
藤田
20年って、確かにすごいですね。
植松
通常のコマーシャルギャラリーであれば、販売を考え、多くの作家を抱え、その時期に売れる作家を売るっていうのが、てっとり早いと思うんです。
でもアーティストのマネージメントやプランニングを主体に、ギャラリースペースを持たずに運営しているスタイルも面白いと思いました。
所属する作家が多くなく、作家との距離感が近いのもいい。
作品を真正面から受け止めて、ずっと信じてくれる人がいるといのは励みになりますね。
藤田
私もそのスタイルを知ったとき、「私がしたいことをしてるかも、千葉さん」ってあこがれました(笑)。
植松
恋愛、結婚みたいなものですと言っていたのですが、本当にそんな感じですね。
藤田
大変でしょうけど、そこまで思ってくださるなら千葉さんを作家も慕うでしょうね。
植松
具体的には、展覧会を作る上で、僕は制作のことを考えてるだけで、ほかの作業を任せられるので助かります。
始めのクライアントとの条件交渉から、広報、販売、展覧会記録まで、自分でやるとなると難しい部分もあるので。
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