toppeople[杉浦慶太インタビュー]
杉浦慶太インタビュー



《なんにもないところへ導くもの#42》


丹原
アートって何なんだろうという問いは、今回の展示で少しは見えてきたのでしょうか?

杉浦
自分としてはアートって新しい美的側面を提案、見せる、見いだすってことだと思うんですけど、《何にもないところへ導くもの》はほんとにやっかいじゃないですか。《惑星》はアートだと思います。新たな価値を提案してるから。《森》もそうだと思うんですけど。《何にもないところへ導くもの》は提案を放棄したってことですから、じゃあなんなんだと。何だと思います?アートじゃないとしたら・・・色のついた紙?何か新しい価値観を見せることがアートであるならば、《何にもないところへ導くもの》はアートじゃない。
でもだからこそアートなのかもしれない。アートってほんと面白いのが予定調和にならないというか、常にフォーマットからはみ出ることが必要で、その人の創造力が試されますよね。アートというフォーマットがあるんだけれども、結局はそれに収まらないのがアートじゃないですか。だから極論としてアートじゃないものが唯一アートたり得るということですね。ああ、また禅問答地獄(笑)。でも、本当にそうだと思いますよ。それは先人たちの歩みを見れば明らかです。もちろん、最低限のルールはあると思いますけど。
《なんにもないところへ導くもの》はプロセスとしては写真なんだけど、カテゴライズが無意味な「天上天下唯我独尊」的な作品です。これは実は写真の本質とも深く関わっているはずです。プロセスとしての写真と、表現としての写真のズレの問題です。もちろん重視すべきは前者が必然的にはらむ「とりとめのなさ」です。具体的にいうと中平卓馬のカラー写真ですかね。手法としては100%写真だし、ネコや子どもなど何が写っているのか誰でも判別できるのだけれど我々はその「とりとめのなさ」の前で立ち尽くすしかない。理由はそれ以上でもそれ以下でもないからです。つまり、写真であるという事実から一歩も進めなくなっちゃうわけです。それは写真だけが持つ魅力だし、危うさをはらんだ怖い部分でもありますよね。

「なんにもないところ」から向かう先



《なんにもないところへ導くもの#7》


丹原
次はどんな作品を創っていこうと考えられてるんですか?

杉浦
《なんにもないところへ導くもの》をまだ自分の中で上手く処理しきれてないですからね。一先ずこれについて考えます。実は僕の中でどん詰まりの状態なんです。袋小路です。もう、なにも創れない。ひょっとするとここから全然違う作風になるかもしれない。女の人の裸を撮るかもしれないし。とりあえず《森》以降続いてきた作品の方向としてはここで終わりました。
行き場がありません。もうやるべきことはないっていうか。
撮影が意識的な行為ならば、もう撮りようがないんですよ。これ以上は。それを超えていくならさっき話した中平卓馬のように世界を凝視しながら意味の世界を突っきっていくか、撮影中のアクシデントを積極的に受け入れていれて、作家の支配が介入する余地を極力排除した作品を創っていくか…どの道、選択肢は限られるように思います。
でも今は視点を変えて、そのどちらにも当てはまらないあえて俗なものを撮ろうとしてます。ビジュアル的にも文脈的にもたくさんの情報があるものです。技術革新や効率化が発達しすぎて本来の意味から離れちゃって、逆によく分かんなくなっちゃったもの。圧倒的な密度を持った俗なものです。


丹原
俗ですか、例えば?

杉浦
秘密です。こういうところで話すと作品を作らないというジンクスがあるので(笑)。ひょっとすると発表せず終わるということもありますよね。人に話すとつくらないんですよ、不思議と。

丹原
そんなジンクスがあるんですね(笑)
この先杉浦さんがどんな答えを出され、進んでいくのか。これからも楽しみにしています。今回はありがとうございました。


「存在と不在」、このサブタイトルがぴったりな杉浦慶太の作品。何もないと思っていたのによく見ると何かが存在していたり、何かが存在しているらしいが、不在だろうと感じたり。
《なんにもないところへ導くもの》を見ていたとき、何も考えられなくなると私は感じたが、そこから離れて再度作品について考えてみると、作品を見る距離、心境、性格、体調など、人によって、時間によって、「存在と不在」は常に変わって感じるのではないだろうかとも思えてきた。
近づけば近づくほど掴めなくなる《なんにもないところへ導くもの》に一番近しい作者が、その作品と距離をとり時間を経ることによって、そこからどのようなものが見えてくるのだろうか。そのときまた彼の見つけたものを聞いてみたいと思う。

 
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