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西野達インタビュー

あいちトリエンナーレのこと〜長者町ラブ



《豆腐仏陀と醤油の後光》 提供:あいちトリエンナーレ・サポーターズクラブ

友利
あいちトリエンナーレの作品なんですけど、金の鯱鉾を取り込んだお部屋の作品かと思いましたよ。

西野
そう!沢山の人がそう思っていたみたいだよ。
愛知万博の時、あの鯱鉾をはずして展示したらしいんだけど、 と言うことはあそこに足場を組むことは技術的に可能なんだ。トリエンナーレ側もこのアイデアにのりのりだったけど、予算的に不可能だったらしい。


友利
それが実現したら、全国からお客さんが殺到したでしょうね。
それにしても、お豆腐の彫刻というのもすごい発想ですね。

西野
展覧会に呼ばれた時から、一つは外で、もう一つは部屋の中で作品を発表したいと思ってたんだ。屋外での発表が長かったから,今は室内での展示にも興味を持ちはじめてる。
あいちトリエンナーレみたいな街を巻き込むデカイ展覧会はアートファンだけのものではなく、むしろあまり関心のない人を対象にしていると俺は思っているから,そういう人たちに現代芸術に興味を持ってもらうために、アイデアの段階でちょっとした仕掛けを考えるよ。その一つが日常的な材料を使って制作すること。
豆腐仏陀に関して言えば、日本人の食卓に欠かせない豆腐と醤油,それと誰でも絶対部屋に持っているだろう洋服ダンスとテーブルを使ったんだ。それとは別に,以前から彫刻の素材として誰も今まで使った事がない材料で何か造りたいという思いもあってこのアイデアが生まれたんだ。


友利
そうですね。豆腐と醤油の味覚と食感は、日本人なら誰にもわかる素材ですね。精進料理みたい(笑)。
私は、大きなお豆腐を作ってもらってそれを彫られるのかな、と思っていました。まさかお豆腐を積み上げられるとは思ってもみませんでした。

西野
そうなんだ。俺も素人考えで、一番最初は仏像の型を作ってそれに豆腐を流し込んでもらって、それが固まって型をはずしたら豆腐の仏像ができている、っていうのが一番簡単だと思ったんだ。豆腐屋に聞いたら「それは無理」と言われた。まあなんとなく予想はしていたけどね。結局普段より大きな豆腐を固めに作ってもらって、それをレンガのように積み重ねていき、積み上がった豆腐の立方体から仏像を彫ることにしたんだ。「食べるわけでないから味は無視して,可能な限り固い豆腐を作ってくれ。」って頼んだよ。こんな変な申し出にお豆腐屋さんが協力してくれたからすごく感謝している。そのうえ豆腐屋協会報みたいな雑誌に、豆腐仏陀の写真を載せたいらしい。この作品,豆腐屋さんにとってイメージ向上につながるのかな?
仏陀の頭の上から醤油を噴き出させるポンプも、安城市のプティオというポンプ屋さんがほぼ無償で貸してくれたんだ。こういう訳が分からない事に興味を持ってくれる人がどんどん増えて欲しいね。自分の許容範囲外だからといって否定や無視するのではなく、明らかに危険な事以外はとりあえず関わってみる方が面白いと思うよ。愛知は保守的だと聞いていたけど,今回の件でイメージが変わったよ。


友利
本当にうまい!どう見ても、木肌のような色といい、仏像ですよね。

西野
今回の仏像はどこがポイントか知ってる?「福耳」なんだ。見学者に福がやってくるようにというわけ。


友利
私が会場に行った時は見れなくて。画像で見るしかないのですが、今度ちゃんと見てみます。
彫るのに何を使われたのですか?

西野
ナイフと包丁です。
このくそ暑い夏にすぐに腐敗するだろうからプレオープンとオープニングの二日間だけの公開の予定だったけど,プレオープンで見せた夜中に崩壊してしまった。この作品を直接見ることが出来たのは19日の16時から19時に来たわずかな人たちだけ。


友利
制作の光景を想像すると、すっごく面白い!彫刻って、石や木とか鉄とか、思い通りにならない素材に対して肉体をいじめながら制作するものだという先入観がありますから。でも、豆腐も自由にならない難しい素材ではありますけど。
展示は老舗のお豆腐屋さんでしたね。

西野
いや、もと呉服屋問屋だよ。ここのオーナーさんも豆腐仏陀のドローイングを見てもいやがるわけでもなく、簡単にオーケーを出してくれた。醤油と腐った豆腐の匂いが充満してくるのにね。あの部屋は元従業員の社員食堂なんだけど,豆腐仏陀を展示するにはうってつけの場所だった。このビルもそうだし,長者町で展示をしている他の作家の場所も多くは今は使われなくなった建物を利用してる。長者町は日本の元三大繊維問屋街だったんだけど,今はすたれてしまってシャッター街の様子を呈している。でもここは名古屋のど真ん中だよ。歩いて栄にも名古屋駅にも大須にも行ける。金を持っていたらすぐにでも一棟ビルを買いたいね。
味わいのある低層ビルの古い問屋街の趣を残して,うまく発展して行って欲しいと思うよ。交通の利便さが高いから,どこにでもあるようなマンションやホテルが建ち始めているけど,このままでは長者町らしさが無くなってしまう。同じように繊維や衣服の空き倉庫街だったニューヨークのソーホー地区は、アートを取り込んで今では高級住宅街・高級ショップ街になっている。こういう独特な場所を面白いと思える敏感な人がもっと増えれば、日本の画一的な都市計画が変わり、街に個性が出て都市が活性化するはず。日本人はあいかわらず右に倣えなのかな?
豆腐仏陀の場所をああいった昔ながらの場所で見せたかったのも,長者町の建物の独特なつくりを知ってもらいたかったのもあるよ。



《転がる愛》 撮影:西野達
夜空に輝く「愛」。(クレーンで地上40mに吊り上げられた文字の直径は11m!)

友利
昨夜は、外のLEDの作品も見ましたよ。(《転がる愛》)
点灯した時、みんな「おお〜」って叫んでいましたよ。

西野
昨日点灯したところをTVニュースとかでやったから、「あれは良い宣伝になる」と役所の人に感謝されたよ。俺は普段アートに関心が無い人を作品の主な観客として想定しているから,一般の人が見るメディアで扱われるのは単純にうれしいね。


友利
大通りに面した角地のいい場所ですしね。
あの作品は、展覧会としての場所・空間をぐっと広げて見せていて、会場全体の場が締まりますよ。

西野
実はあの場所を借りるのが難しかったらしい。トリエンナーレ事務局は借りるのを断られたと聞いたよ。
でも長者町商店街の組合の人たちが東京本社にまで交渉してくれて相手が折れたらしい。住民のトリエンナーレを成功させるという情熱をすごく感じる話じゃない?でも街の人はそれをわいわいと楽しんでしているところがまたいい。長者町商店街の人が助けてくれなかったら実現出来なかったプロジェクトだね。

 
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