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松野真知インタビュー


「LIGHT OF DAY」2012 千草ホテル展示風景


千草ホテル・中庭プロジェクト「LIGHT OF DAY」について


友利
千草ホテルの中庭プロジェクトは、「ホテルのカフェレストランを舞台にして美術を紹介していく」という趣旨で、2008年の11月に始まりましたから、今回でちょうど丸4年、松野さんは12人目の招聘アーティストということですね。私は1回目からほとんど見ているんですよ。

今回の展示ですけど、入り口にあるこの円形で映し出された映像はさりげないのに、人の注意を引きます。円の中を覗きこんだお客さんは、望遠鏡で遠くを見ているような距離感なのですが、松野さんと対面して「あれ?なんだろう?」と首を捻っているようです。

松野
まず、入口に自分という存在から始めています。小さな太陽を戴くようなイメージです。作物が育つことと同じようにその場が大切なこととして在るということを示しています。僕が何の上に立っているかわかりますか?

友利
土?岩ですか?

松野
牛の堆肥の上なんですよ。牛の糞が堆肥になって、それを農家へ供給して稲や麦が育つ。実の収穫の後はそれを分けてもらい餌にして牛が食べて、また排泄する。その循環の中に自分がいる。僕のこうした仕事は晴れていないとできないのでその時のことから、この循環の中の一部としての自分という存在、恩恵を受けている日射しのことについて考えていたんです。そこで展覧会タイトルの「LIGHT OF DAY」としたのです。こうした暮らし方をしている自分としては切実なことが多いものなんですよね。


「LIGHT OF DAY」2012 千草ホテル展示風景

友利
この飼葉の作品は、レストランに牧場の光を持ち込んでいますね。

松野
はい。干し草を入れている容器は、牛の手術の時に使う道具を入れるトレーです。丁寧に意味を扱えるものと考えていてこのトレーに、暮らしの中での光を取り出すかのように見つめるための場に、と意識しています。

友利
干し草の中に埋もれた黄金色のモノは、なんだか・・・(笑)。この前、私はこのオブジェを見ながら、「松野牧場の牛乳を使ったアイスクリーム(※)」というのを食べたのですが、「あれ?今食べているアイスクリームのお乳と排泄物は、同じ牛のものかな?」って、生産される手とそれを享受すること(消費)の繋がりを非常にリアルに感じました。でもちっとも汚いなんて思いませんでしたよ。これは、松野さんが牛に注ぐ大きな愛を感じるからでしょうね。「今日もお前ら、元気だね。」っていう飼い主さんの笑顔が見えるような…。

松野
あ、それは粘土をギュッと手で握ったものです。人には暮らす、創造する二つの手があって、でもそれは元から一つの同じ手です。その重なりを見つけるためのもののように考えています。草に陽が当たって二、三日でこんな色になることにも意味を感じていましたね。雨が降ると大無しで草取りは天気仕事なんですよ。

友利
そのようなご苦労を考えず、私は食べることだけに没頭しておりました(笑)。「この草の感触は松野牧場の日射しだなぁ」って、爽やかに感じましたし、牛のお乳から作られた冷たくて甘い感覚が口からずーっと胃に下りてきて、「おお・・・、牧場の光が体内に入ってくるー」と感激しました。

松野
食べることでこの展示で出来た循環に直接関わることになりますね。そう言ってくださると、作品も場にもっと繋がってくるし、ここでして良かったと感じます。



「LIGHT OF DAY」2012 千草ホテル展示風景

松野
ウィンドウの上のパイプは、搾乳した乳が流れるパイプです。実際に使っていたものです。ガラス製で、2、30kgくらいあるかな。結構重いのですよ。僕からすると、なんだか体に血が通っていることのような、血管みたいにも感じられるもので本当に絶え間ないことなんですよね。身体の一部にも置き換えられるものとして持ち込んでます。 それで牛乳を使った料理をつくって頂くことになりました。


友利
レストランという場は食事や歓談の場と捉えがちですけど、「人の手からなる生産とその循環」という見方もできるのですね。そしてこの場で食べたものの体内循環など、自身が多くの循環の中にいるということを意識させてくれます。

本展キュレーターの花田伸一さん(インディペンデント・キュレーター)が、以前トークの時、「食事と美術を結びつける、日常の思想」「美術活動を美術室の中、絵空事の中で完結させない」ということをおっしゃったことがあるのですが、お客としては、「ここで自分が食事をしてこそ意味を成す!」というような作品は嬉しいですよ。お客の側も回を重ねる毎に目が肥えるというより、作品への要望が贅沢になっていくのかもしれませんね。

 
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