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松野真知インタビュー

「農」の体内から「ART」へのアプローチ
松野真知インタビュー
Masatomo Matsuno Interview
農業地域に各地から作家が集まり、「農」をテーマにした展覧会が開催されることは、珍しいことではなくなりました。そこには、「農」の外から内へ注がれる作家や鑑賞者の目や発見、意思を感じさせます。対して、酪農を営みながら美術活動をされている松野真知さん(福岡県浮羽市在住)は、「農」を「ART」へ転化することで、「農」と「アート」の社会的価値を外部に向けてアプローチしているように見受けられます。この内から外へと流れようとする作品の意思の根源は何でしょうか。現在千草ホテル(北九州市八幡区)で、「松野真知展/LIGHT OF DAY」を開催されている松野さんにお話しを伺いました。

Interviewer 友利香

《「LIGHT OF DAY」2012 千草ホテル》

「キャンパスの木枠を外す」行為の背景


友利
初めまして。松野真知さんの作品は4月にインディペンデント・キュレーターの真武真喜子さんのギャラリー、Operation Table(QMAC)で初めて拝見しました。その時は「うきはの牛飼い(まつのまさとも)」という名前で出品されていましたね。名前もパフォーマンスの写真も、とても新鮮に感じられて、いったいどんな方だろう・・・と、興味を持ちました。今日、こうしてお話が伺えることを嬉しく思います。主に、映像作品をされているのですか?

松野
いいえ。元々の出発は、絵画です。
高校生の頃美術部に入り、油絵の具の基本的な扱いを覚えて、F50〜100くらいのサイズのキャンバスを張り、牧場内の絵をずっと描いていました。その頃は、牧場が小倉にあったので、北九州市立美術館によく行く機会がありましたね。そうしたこともきっかけにあるように感じます。よく常設展を見ていましたよ。


友利
原点は「牧場」なんですね。

松野
はい。うちは、祖父の代から酪農をしていて、自分も家業をすることが三年次にはわかっていまして。大学でも絵画を制作する共通の友人がたくさんいて、それなりにやる気を持って臨んでいましたが、人手も足らず、もう実家の牧場に帰ることが分かった時から、何かしら(絵画に)距離感を持っていました。自分に、このことを一生続けるだけの切実さがないというか…。3年次後期も油絵を描いていて、一日でドローイングを何枚も重ねて、それから10~20号サイズを二、三枚描き飛ばしていくような制作でした。その頃、同時に拾ってきた廃材を使った立体のようなものも作っていました。キャンバス(画面)から外へ向かう出来事について、漠然とではありますが意識していましたね。そういうことや絵画との隔たりも出来ていって、どうやってそのことを見るのか、ということへずれていったんですね。 それがキャンバスに折り紙を貼る動機になって行きました。
卒業後のGallery YANYA(福岡県行橋市)での展示は、光という繋がりを外へ模索したものでしたね。もう出来事の渦中にいる、というか…。
といっても、描くことは畑を耕すことにもよく似ていますし、そこに素直に自分が出るので、絵を描くこと自体は、今でも好きなんですけれどね。



《名は無い》 2009 廃材、折り紙

《Grass work #1》 2011干し草 Gallery YANYA


《牡牛座の石》2012


「TRANSIT」2012 QMAC展示風景



《ミーツセンター乳/肉》 2012  精肉店付近にて

松野
木枠から取り外されたキャンバスに折り紙を貼り巡らすことで、絵画という対象を常にイメージするということ、そのままになるように。絵画は結果としては観る側、描いた自分にとっても視覚的に訴えてくるものですよね。そこで自ずと、身近なもので、画面に光を受け入れやすい銀の折り紙を使いました。
しかし、取り外されたキャンバスには木枠が無い、じゃあ、「自分が木枠の代わりに」と、QMACでの展示は、そこで身体表現をすることに。このことが直接的な意味を孕むことになりました。そこから「ARTと生活が同じことであって欲しい」と、もっと具体的になって。
銀色の折り紙を張ったキャンバス画面は、場によって全く違う表情や意味が見て取れること、キャンバスを持ち上げると空へ向けることになります。そうしてみることと、体で感じていたことへ意識するようになってキャンバスに受ける光は自分にとって日射しのことなんじゃないかな、と。

松野
「ヤン・ファン・エイクという画家の自画像とされる作品などに『己の能う限り』という銘が入っている」と、学生時分に聞いていた覚えがありますが、これは自分の持っているもの全てを画面に注ぐという意味だったと思います。その画面を通して大きく世の中と繋がっていたし、そこにはきっと自分を見つめるための場でもあったんじゃないでしょうか。時代や環境とやってることも全く異なりますけどそのことと僕がキャンバスを持っている意味はどこか、こう、近しいことじゃないかと最近ふと思っていることです。

友利
そうでしたか。松野さんの身に添うように変化したキャンパスは、絵画からの延長、解放、新しい場所への移行という証といった、奥深い意味があったのですね。QMACでの牛乳パフォーマンスは話題になりましたよ。

松野
これは、八幡で昔その周辺で起きたことをきっかけとして考えが行為へと及んだりしています。自分のストーリーを持ちながら浮羽〜北九州を往来して即興的に作って行って幾つかの出来事を繋げる試みになりました。

 
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松野真智(まつのまさとも)

略歴
1983   福岡県北九州市生まれ
2007-2008   松野牧場 就農
(2004)-2010   名古屋芸術大学美術学部絵画学科 卒業
2012現在   松野牧場 就農 うきは市 在住

個展
2011   「消えては、浮かぶ」Gallery YANYA 


グループ展
2008   「IMPROVISATION」Art & Designセンター
2008   「楽園の知恵」Art & Designセンター
2009   「記憶の庭」旧加藤邸アートプロジェクト 旧加藤邸
2010   「はなしにならない」卒業制作展 Art & Designセンター+愛知県美術館
2012   「とらんしっと:世界通り抜け」QMAC(うきはの牛飼いアーティスト)


松野真知さん 
 



 

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