「A Day of Tiger」(2008)
気持ちに沿って絵を描くとプラマイゼロ
藤田
その気持ちはいまでもずっとあるのですか?
松本
最近は気持ちが揺り戻しというか、行ったりきたり繰り返して、つくっています。
藤田
え?どういう意味ですか?
松本
平たく言うと、過去のことにとらわれているんです。
いまの自分ならできることだけど、当時はできなかったこと、ってありますよね。
そういう「昔の自分」を助けに、いま戻ることができるのではないか、そんなことをするのは間違っているかどうかは分からないけれど、タイムマシン的な心の操作を繰り返していたんですね。
作品をつくるとき、そういう時間軸で考えたら、過去から未来への集積というのは、現在にきっとたたみこまれている。
だから未来からいまの自分は助けてもらっている、みたいな、「過去からのもの」とか「未来からのもの」とかいう「感覚としての存在」を総動員して、いまの自分を助けてくれている、というような気持ちなんです。
でも自分にとって、いま現在がどのくらい大切なことなのか、ということは、その「変化」の中でやっていかないと分からない。
藤田
つまり、いま現在の松本力、あるいは、いま現在のちからさんの作品は、過去や未来からも影響を受けあっている、ということですね。
そんな気持ちも、絵で表現されるのですか。
松本
そうですね、絵によって自分の意識を掘り起こせるか、ということも、どこか同時にあります。
ときに徒労に終わるんじゃないかと思うこともあるんだけど、最近は自分の心が行動にぴったり沿ってきています。
つまり、何をやっていても絵につながるだろうし、絵を描いてるときの気持ちで毎日を送れるんだろう、と思ってる、ちょっとした発見ですね。
藤田
そういう確信みたいなものって、いつから芽生えたのですか?
子どものころから絵を描こうとおもって生きてきたのか、ある日そう思ったのか。
松本
子どものころはよく絵を描くほうだったと思うんです。
中学時代も校内暴力がひどいなかで、美術の授業に出てるのは僕だけだったような(笑)。
美術の先生が、僕の絵の可能性を信じてくれた、ということも励みになったかもしれない。
当時から僕の字はカクカク(角々)してて、そのカクカクした文字のようにカクカクした絵を、叔母にあげたらすごい喜んでくれたんですね。
藤田
ほお、すごいじゃないですか。
松本
それまで自分のために絵を描いていたのに、他人に喜んでもらえる、見てくれる人の反応が、子供心にもうれしくて。
毎日絵を描けば、そうやって毎日を楽しく送ることができるかもしれない、と、とても楽しいことを想像しはじめたり。
とはいえ、マイナスなことがあったときは、それを隠すためのプラスのことをしなくてはいけないですよね。
マイナスのパワーで絵を描いていくんだけど、やがて気持ちがプラスになっていって、エネルギーをもらう、みたいなことも試していったり。
そういうことを繰り返して、自分の生活をプラスマイナスゼロ、あるいはちょっとプラスで楽しめれば、と思っていたわけです。
藤田
いまなお?
松本
そう、いまなお。 |