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窪田美樹インタビュー
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a,b,c.《寄り目》、2005年
d.《くちばし》、2002年

作品という現実と、頭の中にある虚像の中間を作りたい


藤田
この(写真a,b,c.)の断面、すごいツルツルですね。

窪田
パテを補填しながら研磨された面には、断面として椅子のラインがぼんやりと絵の様に浮かび上がって、とても不思議な感じがしました。隣りあう研磨していない部分は現実に存在する家具としてのディテールがあるのに、その現実に対して、虚構の世界がはめ込まれているような感じがしたんです。そしてその虚構の世界は、現実の私の行為によって、向こうから立ち現れてきたものと思えてきたんです。このことは、これまでずっと悩んできた、頭に浮かんだものを立体化することの不自然さ、違和感の問題に触れている様に思いました。


藤田
確かに、不自然というか不思議というか、見る方向で家具らしいもの、家具とは全く違うもの、と二面性を持っていますね。しかもそれは極端にまで違います、隣り合っているというのに。

 

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e.《美しい景色》2005年
f.
《消える背景》、2005年
g.《部屋》2005年
h.《かげとり(虫)》、2007年
i.
新宿眼科画廊会場風景、2007年
j.《かげとり(傾斜)》2007年
k.《かげとり(切開)》、2007年
窪田
頭に浮かんだものというのは、いくら考えても平面だと思うんです。平面のものを立体化しようとすると、黙認しなくてはいけない部分がどうしても出てきます。それを避けるためには、ぼんやりと埋まっているイメージを抱きながらも、決して完成図は浮かべずに、設計図なども描かずに、ただ行為によって結果的に出来るものを目指します。そうやって出来たものは、現実に存在しながらも、はじめにぼんやりと頭に浮かべた、埋まっている家具というイメージの世界に
近づいていく気がするのです。
(写真e、f、g、)

藤田
今回(個展「かげとり」)の作品は「薄い」ですね、これも想像通りなのですか?

窪田
確かに作品が薄い事を多くの方に指摘されました。見ていただく方々は、やはりそこにある物をみる訳ですから、彫刻を制作しているとしている私が、薄い物を作っている事を不思議に
感じられたのだと思います。
(写真h、i、j、k)

藤田
でも窪田さん本人は「薄い」なんて思ってないんでしょう?

窪田
過剰に行為に及んだ結果、薄くなったと言う感じです。来ていただいた方のなかに「残りの部分が木っぱ微塵になっていると思うと面白いですね。」と言っていただいた方がいて、それは私にとってとても嬉しい言葉だったので、そのままいただくと、残りの部分が木っぱ微塵なだけで、これも一つの塊です。


藤田
そうですね、見せられた部分じゃない、残りの削られたもののことを考えると、それはそれで作品になるようなものかもしれませんね。
ビニールの作品があるでしょう?あれはどういう意図で作ったんですか?

窪田
3年ほど前から制作している作品です。虚構と現実の中間について考えた中で、虚構としてのイメージ自体が、現実に引き戻されている物を作りたいと思って出てきたのです。


藤田
ビニールが重なっていたり、模様みたいなのがあったり、どうやって作っているのですか?

窪田
写真の上に一枚ビニールを置いて、チューブ状の透明な接着剤でそれをトレースします。ビニールシートと通過して図が浮かび上がってくる訳です。それを固まる前にもう一枚のビニールシートで押しつぶします。


藤田
また意味が深そうですね。

窪田
潰れた図は原型が少し残るものの、二枚のビニールシートを接着する現実の接着剤に引き戻されている。家具の作品が研磨によって虚構に押しやられているとして、こちらはその逆を行っていると考えています。


藤田
過去に私が聖蹟桜ヶ丘で見たものや、去年の府中ビエンナーレのときのものと、今回またモチーフが違いますよね。

窪田
今回選んだ写真は、この夏に撮った花火の写真です(写真l、m)。


藤田
花火とか、モチーフの意味とか理由とかあるんですか?

窪田
もともと報道写真をトレースする事から始めました(写真n、o)。それは私が撮影したものではなく、ある程度公になっているもので、このプランに合っていました。ただ、しばらくすると「もうちょっとたくさん作りたいな」と、単純に思いまして。そこで自分で写真を撮影したのですが、そうするとどうしても、いい写真を撮ろうとしてしまう。これだとあまり意味がない。そうしているうちに、偶然花火の写真を撮ったのですが、花火というのは自分が思う様に撮れないんです。写っていなかったり、構図がめちゃくちゃだったり、或は予想外に綺麗だったり。この感じが、このトレースの仕事に向いているなと思いました。花火はこの展示で終わりですが、この後どういう写真を選ぶべきかは少し解った気がします。今後この仕事は、より物質化していく方向にいきたいと思っています。


 
 
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l.《Trace(花火)》、2007年
m.《Trace(花火)》、2007年
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n. 《Trace(浅沼委員長刺殺事件)》、2005年
o. 《Trace(女優)》、2005年
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p. 《Trace(男)》、2005年
q. 《Trace(少女)》、2005年
 
 

 

美術に助けられているから続けていたい

藤田
なぜ作家を続けている、と思いますか?

窪田
うーん、やりたいから、ですかね。


藤田
たとえばこないだも同世代の作家さんとしゃべってて「美術のことを四六時中考えているし、寝る時間も惜しんでやっている」っていう話になりました。私もそう、美術のことしか見ない、書かない、考えないという気持ちでいるけど、それでも時間が足りないくらいに感じます。窪田さんはどうですか?

窪田
寝るのは大事ですよ。


藤田
あ、すみません・・・。

窪田
頑張る時もありますけれど、可能な限り生活の一部、普通にあるものとしてやっていくのが理想です。平常心を保っていたい。実はこれに必死な時もあるのですが(笑)。あと、美術をする事で出会えた人たちというのは、財産だと思っています。
そういう意味で、美術に助けられた場面はたくさんあります。


藤田
10年後とか、窪田さんの野望も聞いてもいいですか?

窪田
野望ではないけれど、破綻や変化を恐れる事なく作り続けていたいです。


藤田
私も何が起こるかわかりませんが(笑)、窪田さんを見続けて行きたいです。
最近受かった、来年1月に展覧会をする資生堂ギャラリー「ARTEGG」の抱負も聞かせてください。

窪田
普通に頑張ります(笑)。
これからもよろしくお願いします。


藤田
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします!
今日はどうも長い時間ありがとうございました。
 
 
PHOTO:加藤健

 
 
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