toppeople[東亭順インタビュー]
東亭順インタビュー


場所で変わること/変わらないこと











藤田
そういったなかで、制作でも生活でもいいのですが、日本との違いってありますか。

東亭
最初に住みはじめたときは。僕は周りの人を知らないし、周りの人も僕を知りませんでした。
そういう気持ちでやっているので、これまでの作品にこだわることもなく、新しいことにもチャレンジしやすい、可能性を探りながらつくれます。


藤田
スイスはドイツやフランスに囲まれているというイメージがあるのですが、言葉の問題はどうでしょうか。

東亭
スイスでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4カ国語がつかわれています。
僕が住んでいるバーゼルはドイツ語圏ですが、スーパーで売られている商品には3カ国語(独仏伊)が表示されています。
不慣れな言語環境の下では、余計な情報は一切耳に入ってこない。
必要な情報もスムーズには入ってこないので、求める情報を集めて知る事だけでひと苦労です。
逆に言葉が分からない分、知りたい情報だけ知る、自分のしたいことだけの問題を解決する、という感じですね。


藤田
制作だけでなく、展示についてはどうでしょうか。
海外にいる作家を日本から眺めているとき、彼らが制作するために渡航したことは分かっていても、実際展示をしているのかはよく分からない。
東亭さんはスイスなど日本以外での発表する場所を、どうやって見つけているのでしょうか。

東亭
発表する場所については、提供されるわけではありません。
国に関わらず、人と人との関係だと思います。
人づてにどういうギャラリーがあるかを聞いて、調べて、ということをしながら、僕はこういう作品をつくっているという話をして、チャンスを得ています。


藤田
具体的には、どういうところで展示されたのでしょうか。

東亭
バーゼルを中心にした独仏の近隣地域の美術館などのスペースで、一年に一度行われるアートフェスティバルで、キュレーターたち選んでもらって、展示をさせてもらいました。
他に、スイスだとチューリッヒ、ルツェルン、ドイツのハンブルク、フランスのストラスブールなどです。


藤田
東亭さんがバーゼルに行かれた2009年も、たったいまの2012年もそうなのですが、日本では大学を出たばかりから30歳くらいまでの子たちを展覧会で取り上げて、特に40歳を超えてだんだん年齢とともにアーティストが減って行く、という状況にあります。
そんな日本とバーゼルあるいは海外では、違いはありますか。

東亭
ヨーロッパは30歳くらいでもまだ若手で、40、50歳になっても、マイペースに、充実した制作・発表をしています。
日本とは状況が違うんです。
日本は特殊かもしれない、年齢とともにチャンスが減るというのもどうかな、と思いますね。
もちろんスイスでも80年代生まれの作家はたくさんいますが、ガツガツしていないんです。



《C-A1 誰にも言わずに黙っていることがある。》

藤田
5年前、横浜のアトリエに伺ったとき、一軒家のふすまとかとっぱらって、キャンバスを立て掛けて作業していましたよね。
風景を撮影して、それをもとにした制作、つまりキャンバスに色を塗って、磨いて、を繰り返してツルツルの画面をつくられてましたよね。
バーゼルに行ってからも、そのような手法だったり、モチーフだったりするのでしょうか。

東亭
考えていたことや表現は深くなった、と思っています。


藤田
具体的にどういうことでしょうか。


《Sad but True #5》



東亭
ベッドシーツに絵を描くようになりました。

藤田
え!他人のベッドシーツをつかうんですか。

東亭
向こうの街を歩くと、アンティーク屋さんや中古品を扱うお店がたくさんあって、質が良いベッドシーツがたくさんあるのです。
ほつれを繕っていたり、イ二シャルを刺繍していたり、なかなかかわいらしく、しっかりしたものが多いのです。
ヨーロッパはベッド文化だとはいえ、中古のベッドシーツを売るなんて、日本ではないことですよね。
そういう日本とは違うベッドシーツを木枠に貼って、キャンバスのようにつかうようになりました。

藤田
それは文化が違いますね、、、。

東亭
ドイツ人にベッドシーツの話をしたら、「僕らドイツ人がおはしをつかって作品をつくっているようなものだ」と言われましたが、そういう違和感でしょうね。


藤田
実際はどういう制作方法をしているのですか。

東亭
ベッドシーツにオイルをたらし込むことで、オイルが染み込んだ部分は変色し、半透明になります。
半透明になることで、木枠も透けて見えてきます。
また、壁の色も画面に直接影響を与えます。
二次元だけでなく、三次元も取り込んだ上で二次元が見える。ということです。
また、そのベッドシーツが持つ歴史や物語性を感じることで、時間の奥行きも見えるかな、と。
実際、裏面(裏側)からの仕事が多いので、表面に絵具を重ねて見せるというよりも、表面にあらわれるように押し込む、刷り込む、にじませる。という意識の作業にな
ります。


藤田
これまでの東亭さんと関連があるのでしょうか。

東亭
記憶のもろさや危うさをテーマにして、自分の撮影した写真の上に絵具を重ねたり、画面を磨いたり、あるいは作品を床に置いたり、画面を円形にすることで、絵画の正
面を無化するとかしてきました。
その延長線に、いまの絵画制作があると思ってます。


藤田
つまりどういうことでしょうか。

東亭
"地"であるベッドシーツに、「他人の記憶」のようにオイルや絵具を「上書き」して"図"をつくります。
僕は観察や解剖して地と図を分けながら、作品の中にストーリーを生み出していきます。
"図"と"地"の入れ替わりをすることで、画面に起こること、残された跡など、少しづつ物語性を持つような展開してきました。


藤田
他にもありますか。

東亭
2年くらい前から、マスキングテープをつかいはじめたんです。
 
前のページへ 123 次のページへ
 



 

topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.