topreviews[字界へ―隘路のかたち/愛知]
字界へ―隘路のかたち
泉孝昭〈ホームパーティー〉
Photo By Ikumasa Hayashi

後藤穣〈ランドスケープ〉
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Photo By Ikumasa Hayashi
小栗沙弥子〈テリトリー―岩作・安田浴槽住設〉
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Photo By Ayako Kawata


手前・永田圭〈渦〉
奥・小栗沙弥子〈テリトリー―岩作・安田浴槽住設〉
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Photo By Ikumasa Hayashi


 文化の家の中を見終わって、レンタサイクルで香流川沿いを走り、旧岩作商店街、字の世界へと向かう。

 旧岩作商店街では酒越管工、タケダ建設、岡田新聞、安田浴槽の4箇所の会場をお借りした。酒越管工に展示された後藤穣の〈ランドスケープ〉は、家とその周りに木々のある、オフホワイトで半透明の立体に映像を映し出したインスタレーションである。タケダ建設には3人の作品が展示され、その一人、小林大地の〈辻音楽師〉では、屋台のような見た目の巨大なオルゴールが涼しげな音色を奏でる。
木村充伯の〈絵画彫刻〉シリーズは、その素材が全て油絵の具という、油絵とも彫刻とも分類しがたい作品である。
堂端徹の〈かおたんす〉は、素材がまな板というゴツゴツした顔の中の目、口、耳などの部位が引き出せるようになっており、引き出す前と後の表情の変化が面白い。小栗沙弥子の〈テリトリー―岩作・安田浴槽住設〉は、会場の安田浴槽店を展示のために掃除した時に出たほこりを膠で溶いて、壁にドローイングしたインスタレーションである。
ドローイングとその周りにある白い立体は、いずれも小栗が長久手町の字界を歩いて着想を得たものである。同じく安田浴槽に展示された永田圭の〈渦〉は、中心に向かって渦を巻く巨大な立体作品である。

 旧岩作商店街会場で私が特に字的な要素を感じた作品、泉孝昭の〈ホームパーティー〉は、今は使われなくなった岡田新聞店の中を、クリスマスによく家庭で使われる装飾品で飾り付けしたインスタレーションである。しかしよく見てみると、その装飾品の形はトヨタ、三菱、JR等の愛知万博に参加した企業のロゴマークになっている。それらは、薄暗い部屋の中モールの安っぽい光を放ち、天井から吊るされた色紙のマークは重力に負けてしなしなと垂れ下がっている。その空間は、普段想像するそれらの大企業の華やかなイメージとは逆に、一様に空虚で寂しい。この作品は、それらの企業、そして万博への少々の揶揄とも受け取れるであろう。また、飾りの中の日立のロゴマークは、今はもう使われていない昔のものである。現在使われているものと昔使われていたものとが共存する空間は、現在の長久手町の縮図のようでもある。

 今回の展覧会は、美術館やギャラリーなど、「作品」が当然期待される場ではない街中や施設の中に展開した事で、普段美術をみる機会が少ない人にも気軽に作品と出会っていただけたという利点があった。また、旧岩作商店街にも作品を展開したことは、展覧会のコンセプトから考えても必然的なことであったが、私が香流川沿いを歩いた時のように、観者は作品をみて回るうちに長久手町の「字」の部分に触れることが出来たのではないかと思う。

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