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山田純嗣インタビュー


山田純嗣の制作過程が複雑な理由


<製作工程>

模型をつくる


撮影する


トレースする


銅版画にする


作品完成

藤田
山田さんの作品は「かわいい絵」とか、ぱっと見でも印象に残ります。
でも何かそれで片付けられない、と感じることがあって、よくよく聞いたらすごい複雑な制作過程を経てつくられていて納得しました。

山田
名古屋は車社会なので、僕も大学へ車で通っていたことが関係していると思います。

藤田
どういう意味でしょうか。

山田
制作と環境は密接に関係していると思うのです。
もし僕が東京にいたら、制作場所も満足になかったでしょうから、普通の油絵とか、消えてなくなるような仕事をしていると思います。
今の僕の作品は、ボッシュの《快楽の園》など元となる絵画の画面に出て来るモチーフとなるものを、すべて粘土や石膏の模型をつくることからはじまります。
できた模型を並べて写真に撮り、版を起こして、版画をつくっていくのです。

藤田
大変そうですね。

山田
そう、時間も手間もかかるし、他のところだとできない仕事だと思います。
加えて名古屋は物価が安いし、車で買い出しをしやすいお店もそろっています。
やろうと思ったことがすぐやれる環境なんです。


藤田
そんな理由で、制作過程が複雑化していったのですか!

山田
そうなんです。


藤田
たとえばボッシュの《快楽の園》を元にしているのはなぜですか。

山田
あれは1500年ごろというとても古い作品なのですが、見ていると不思議だし、絵の中をひもときたくなります。
描かれているものは、キリスト教に関係しているのですが、必ずしも聖書どおりというわけでもなく、けっこう空想のようなものも加わっていて、それが魅力になっています。
また、人がいっぱい描かれている画面全体を眺めると、抽象表現主義の広がりのある画面とも相通ずるように思えたり。
それと、僕個人の小さいころから今までの経験、例えばプラモデルで遊ぶときに、プラモデルというモノを見て、僕たちはモノの背景にある世界、物語を想像して遊んでたと思うんです。
僕はキン肉マン消しゴムも全部集めていたのですが、集める消しゴムの色も肌色のものだけと決めていて、それに全部色を塗っていました。


藤田
え?キン肉マン消しゴムに色を塗ったってことですか。

山田
肌は一番下地だから、消しゴム自体の色が肌色であることが大切だったんです。
その上に着ている服が青なら青色に塗って、というように手を入れて、自分なりの対決をさせて遊んでたんです。
そういう自分なりのストーリーをつくることと、ボッシュの作品を見てストーリーを考えたり想像するということは同じだ、と思っています。
あと、絵画史の中に、自分がいる社会や状況を重ね合わせたり、絵画の普遍的な部分と自分の芯となる部分が共存していることなど、ボッシュの《快楽の園》には組み込まれていて、どれだけ見ていても、単純に「わかった」とならないところが魅力的に感じるので選んでいるのです。

藤田
すごいですね。

山田
作品は過去から積み重ねられている歴史の層やレイヤーで出来ていて、未来の人にも通じるような、響いていく普遍性である、というのが、僕の作品の目指すところだ、と。


藤田
宗教はどうとらえているんですか。

山田
重要ですよね。
宗教って、言いかえると「ルール」のようなものだと思うのです。
傍から見ると奇異に映るようなものでも、やっている本人には確固たるものがある、その人の行動のもとになるようなもの。
僕は日本に住んでいて日本人だから宗教に無頓着に思われがちだけれど、実は根深いところに宗教が関わってるように感じます。
アニミズム的な感覚も、僕は小さいころからずっと持っていると思います。
母に連れられて保育園に行くとき必ず神社の前で手を合わせていたし、小さいころは石は生きてると思ってたから石蹴りするたびに「ごめんね」と謝って蹴ってたし。


藤田
ふふふふ。

山田
そういうアイデンティティにも関わるという意味で、宗教性は大事にしたいですね。
2009年にした中京大学C・スクエアでは展覧会タイトルを「The Pure Land」と付けたのは、「浄土」、けがれのない世界という意味でした。
「浄土」というのを、眼前にあるのではなく、想像の中に信じる世界だと考えると、絵画や美術に触れたときに到達する領域も近いものではないか、と。
もうすぐはじまる名古屋市美術館「ポジション2012」展でも、正面にボッシュの《快楽の園》を持ってきて、それを中心に「浄土」のような空間が作れればと考えています。
信じてきたものが揺らいでいる今、自分の手で信じられるものを構築しなければという思いもあります。


 
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