toppeople[柴川敏之インタビュー]

柴川敏之インタビュー

2000年後の冒険ミュージアム/広島県立歴史博物館
ワークショップ「2000年後を紙にうつそう!!! 」で制作した5,352人の子どもたちの作品をエントランスホールに展示(一部分)。

PLANET MUSEUM / ONE ROOM
夢創館

2000年後の冒険ミュージアム/広島県立歴史博物館 ガラスケースのコーナー
柴川作品と草戸千軒町遺跡の出土品を混在させたガラスケースでの展示。

「発掘された作品」を作ったきっかけ



草戸千軒と展覧会



広島での活躍とこれから


  2000年後の冒険ミュージアム/広島県立歴史博物館
ワークシートを使って、いろんなものに見立てをし、想像をふくらませている様子。
[草戸千軒と展覧会]

藤田
先に述べたように、「遺跡」として、「こういうのが発掘されたら?」というものが埋まった状態や掘り起こされたものとしての展示方法を取りながら、岡山のデビットホールやしぶや美術館で発表をなさってきたんですよね。


柴川
はい。その後、2000年の1月に、個展会場で広島県立歴史博物館の学芸員さんと出会い、新たな転機を迎えました。その学芸員さんから同博物館のおかれている状況や入場者数の減少などの問題点を伺い、私の作品や発想を生かした展示のアイデアと協力を求められ一緒に考えることになりました。また、平成14年度(2002年)からの学校週5日制の完全実施に伴い、美術館・博物館教育はますますその重要性を増している時でもありました。しばらくして、あるアイデアが浮かびました。それまでは自作において、2000年後に発掘されるものは、現在の身近なものが化石化したという設定の作品を制作してきました。しかし、よく考えてみると同じ場所をさらに掘りすすめた場合、草戸千軒や弥生の時代のものも出てくるのではないかということに改めて気が付きました。この観点から、自作と草戸千軒の出土品とをコラボレーションし、歴史の重層性を表現することによって、来館者は自分の置かれている現在の位置に気付くとともに、自分が現代社会に生きることの意味を考える契機になるのではないか。「博物館全体を2000年後の博物館に見立て、41世紀の博物館へ冒険しよう!」という案です。

藤田
それが去年夏、広島県立歴史博物館での「2000年後の冒険ミュージアム“川に埋もれた伝説の町〜草戸千軒”と“現代の美術”展」という展覧会を開催するきっかけになったのですね。


柴川
その後(2002年)、改めて協力要請を受け、先のアイデアをもとに自作(現代の化石)を通して草戸千軒町遺跡および歴史のおもしろさを伝えるための具体的なプランを考え、これらを博物館に提案していきました。本展を機に草戸千軒の存在をより多くの人達に知ってもらいたい。そのためには、自作のある1階の企画展示室を一つの“装置”として考え、いかに2階の常設展示室に足を運んでもらう工夫をするかを基本に展示プランを考えていきました。

藤田
すごいですね、作家自ら「常設展示」まで頭に入れて展示を考えるとは。そこまでしたのは、どうしてですか?


柴川
一般的に歴史という教科は「暗記の科目」と思われがちではないでしょうか。私自身、大学受験科目として世界史を選択したのもそんな理由からでした。しかし、ポンペイや草戸千軒町遺跡など国内外の遺跡を見てまわるうちにその考えは変わっていきました。その頃から、歴史はアートと同じく「創造的な科目」だと考えるようになりました。例えば、発掘現場の考古学者が、土の中からあるものを掘り出した場合、そこにはキャプションは存在しません。彼らはその物体だけを見て、形や材質から色々な思考を働かせ、過去の体験や今までの研究の成果などを総動員してその物体に意味付けをしていきます。まさしく創造的な活動であり、その行為はアートにも通じます。また、私が大阪に住んでいた小学校5年生の頃、裏山に秘密基地を作って遊んでいた時に土の中から土器の欠片のようなものが出てきました。これらの欠片は、欠片であるがゆえに色々な動物の形に見立てたり、もとの形を想像したりすることができ、様々なイメージをひろげてくれる宝物でもありました。そして、その時の土の持つ手触りと質感は後の作品制作にも大きな影響を与えてくれました。これらの経験がもとになって、「体験・地域・連携」等をキーワードとした具体的な展示プラン(キャプションのない展示や企画展示と常設展示を連動させるワークシート、発展性のあるワークショップ等)を考え、博物館の人達とともに毎日のように協議し、アートを通して歴史の楽しさを感じてもらうための工夫を試みました。

藤田
そうですね。歴史って「あったことを覚える」科目のようですが、余裕があればどの時代でも、想像の膨らむ物語がある話ですよね。私も母の実家の裏山が古墳で、古墳ということを知ったとき、地面を掘ったり、その時代ここはどういう場所だったんだろうと考えたりしましたよ。とくに子供の頃って、「わくわく」感ってとても好きですからね。


柴川
2000年後を考えることは、現在を考えることです。2000年後の未来から眺めると現代は遠い過去であり、草戸千軒の時代と比べても600年くらいの差しかありません。このような未来からの視点で考えてみると、草戸千軒の時代も現代も同じ過去であり、私たちはまさに歴史の断面に生きていることを実感できます。と同時に、私たちが抱えている環境や平和など現代の様々な問題を考えていく上で、41世紀からの視点をイメージすることにより、今の時代に何をすべきかということもみえてくるかもしれません。

藤田
なるほど。時間軸をそんなに大きくとらえて考えることだけでも、普段はしない想像力を要しますね。この展示、いい企画ですね。今知ったっていう人は「行きたかったー」って叫んでるかも!

前のページへ \ 次のページへ

 

topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.