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稲垣智子インタビュー

インスタレーションやパフォーマンス、映像と幅広く活躍する稲垣智子さん。
「神戸アートアニュアル2002」(2002年/神戸アートビレッジセンター)での鮮烈な展示以来、着実に作家活動をしています。
今回は、6月25日から群馬県立館林美術館ではじまる「夏の蜃気楼−自然をうつしだす現代の作家たち−」展に参加される稲垣さんに、美術作家とは何か、そして展覧会についての意気込みなどを伺います。

INTERVIEWER 藤田千彩

藤田
稲垣さんの作品はずっとインターネットで見ていました。
去年、現代美術製作所CAS(キャズ/アートNPOでありスペース運営もしている)の展覧会に出されているのを知り、「わっ!本物が見える」と行った記憶があります。
でもそれは私がたまたま見ることが出来たという話であって、いままでどういう作品を作ってきたかというのを皆さんに教えていただけますか?


稲垣
パフォーマンス、インスタレーション、映像等の作品が多いですね。
どういうものかというと、例えば食品衛生法に定められている最大の量の添加物を入れて腐らないケーキ等の生菓子、そしてキスをし続けているように見える男女の映像によるインスタレーション《最後のデザート》や、たくさんの造花が吊るされたスペースに体を洗う9体の石鹸でできた浴女像が配置され、壁には花が落ちていく映像と、オペラを歌いながら自分とそっくりの石鹸の彫像を洗い溶かしていく女性の映像からなるインスタレーション《春》等があります。
現代の事象を参照にし、見せ方としては夢のような空間を作ることを意識して制作しています。
人がそこで日常から離れて、生活を違う側面から見ることができるもう一つの時空間を作りたいと考えてます。

藤田
私が現代美術製作所で見たのは、インスタレーション《春》ですね。
石鹸の彫像を洗って洗って・・・気づくと小さくなっていく映像でした。
とてもきれいな、しかし結果的にはとても哀しくなるというオチが印象的です。
それ以外の作品も、話を伺っているだけで、はかなくそして切ない感じですよね。
なぜそういう作品を作り始めたのですか?


稲垣
このインスタレーションは洗浄と浄化、生あるものとないものということを考えて作りました。
映像の女性が歌うオペラは「椿姫」から「乾杯の歌」で、簡単にいうと、人生は短いから楽しもうという内容の歌です。

《春》2004
インスタレーション
女性は、この女性そっくりの石鹸の彫像を歌いながら洗い溶かしていきます。
オペラの曲は女性が一人で歌っているように聞こえますが、本当は2つのパートに分かれていて、映像では最初女性は歌っておらず、別のところから誰かが歌っているのが流れています。
これは彫像の声かもしれない「もの」の声と考えています。
続いてもう一つのパートを映像の女性が歌いだします。
これはデュエットなんです。
2パートとも同じ人に歌ってもらっているので、一つの歌に聴こえるのですが、よく聴くと、二つのパートがあって、二つの声が重なるところもあって協和していたりするんですよ。

藤田
そう、その歌声は「美しい!」って思いました。
でも石鹸がなくなっていくという内容が、「美しい」と思っていた気持ちからかけ離れていくのです。
《最後のデザート》も、「キスしてるよー」というどきどきする気持ちから、だんだん「うぇーまだしてるよー」って嫌悪感になっていくし。。。
どの作品も、その乖離を楽しむというか、「美」と「美じゃないもの」を楽しむことを兼ね備えた内容ですよね。


稲垣
あの映像もキスを繰り返してるように見えますが、実際は女性が唇に塗った口紅を男性に食べてもらって、口紅一本がなくなるまで続けているという作品です。
作品を制作する時に一見美しい空間を作りたいと思います。
そこに入ると美しい空間であった場所は別の様相を見せていく。
別の時空間、人が入って進行していく舞台のような空間を創造したい。
舞台のことを考えるのは中学時代から東京の美大生の時まで劇団に入って演劇をしていたことが関係してるかもしれません。


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稲垣智子(いながき・ともこ)
1975   大阪府生まれ
2001   英国ミドルセックス大学美術学部卒

主な個展歴
2002   「Dream Island」(CAS/大阪)
2003   「Underneath the Twinkling Stars」(Krinzinger Projekte/ウィーン)
2004   「Soap Opera」(ArtU-room/東京) 
稲垣智子さん 

主なグループ展歴
1998   「Dairy」( Quicksilver Gallery/ロンドン)ブリュッセル、パリに巡回
2000   「East End Collaboration 2000」 (ロンドン)
「Bang」 (Standpoint Gallery/ロンドン)
「第三回国際実験パフォーマンスアートフェスティバル」(ロシア)
2001   「The National Review of Live Art」(イギリス)
2002   「神戸アートアニュアル2002『ミルフィーユ』展」(神戸アートビレッジセ
ンター/兵庫)
2003   「入人」(CCA北九州/福岡)
「こもれび」(水戸芸術館現代美術センター/茨城)
2004   「大阪・アート・カレイドスコープ『春・花・生』展」(CASO、大阪府立現
代美術センター/大阪)
「Art Court Frontier 2004」(ARTCOURT Gallery/大阪)
「Pilot Plant」 巡回展 (現代美術製作所/東京、海岸通ギャラリー
CASO/大阪)
「Bunkamura Art Show 2004 Landing」(Bunkamura Gallery/東京)
「Open Studio」 (ARCUS/茨城)

その他活動歴
1999   「Ray Finnis Award 1999」(イギリス)
2002   資生堂ADSP入選
2004   ARCUS Project
舞台美術 「Le Cabinet Dore」 (Tokyo FM Hall/東京)

 


《春》2004
インスタレーション

別の時空間、人が入って進行していく舞台のような空間を創造したい。



健康的な苦労があってもいいので、その分楽しいこともあるような世界にしたいですよね。



文化や社会によって発展した、またはゆがめられた部分に興味がありますね。




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