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林勇気インタビュー

   
《the world and fragments of the world》(videostill )2010年
ハイビジョンビデオ、プロジェクター、モニター、Music by Hara Marihiko
《the world and fragments of the world》(videostill )2010年、
ハイビジョンビデオ、プロジェクター、モニター、Music by Hara Marihiko

視点の移行、記録や記憶の中へ



《the world and fragments of the world》2010年、ラムダプリント


高嶋
先日、神戸のギャラリーヤマキファインアートで開催されている個展を見に行ってまいりました。特に出品作の《the world and fragments of the world》には、これまでの作品からの変化を感じました。
TVゲームのダンジョンを想起させるような、これまでのフラットな画面から、三次元的な奥行き感のある世界へと移行しているように思います。また画面に登場する人物も、ファミコンのように他の物体と同じサイズではなく、より「主人公」としての存在感が増しているように思います。後ろ姿の彼が黙々と歩き続けていくと、林の中から家が現れたり、花畑から砂漠に変わったり、岩がゴロゴロ転がっている風景の中に突然鉄塔が現れたりして、彼の見た心象風景の中を観客も一緒に旅している、という感じを受けました。
こうした視点の違いについて、どのように意識されていますか?


TVゲームの画面のような作品というのは、例えば《garden》のような作品ですね。


高嶋
まさにスーパーマリオブラザーズのような、ファミコンのダンジョン画面ですね。蟻の巣を縦に切ったような画面の中では、細い通路でつながった部屋から部屋へ、人物が動き回っていきます。穴があるとジャンプしたり、かと思うと下に落ちてしまう場合もあり、次はどんな動作をするのか、いつまでも見ていたくなります。


音も、ジャンプに合わせて電子音っぽい効果音を入れたりと、面白いんですよ。


高嶋
ファミコンからの影響については、どう考えていますか?


ファミコンの画面は、俯瞰的な視点で描いている点が興味深いです。それまでになかった視覚経験ですから。


高嶋
新作の《the world and fragments of the world》の場合、そうした俯瞰的な視点から、主観ショットに近いものに移行されていますね?


《garden》2008年、ハイビジョンビデオ、プロジェクター、モニター、ラムダプリント、Music by SPANOVA、ARTCOURT Galleryでのインスタレーション、Photographed by THOMAS Savb
(※プロジェクションされた映像の右の壁には、スクロールしていく画面をつなぎ合わせて俯瞰図全体を示した地図が、展示されている)



正確には主観ショットではなく、やや後に引いた視点から描いています。
写真を切り取ってアニメーションを作るプロセス自体は同じですが、これまでは俯瞰的に見ていた世界の中に入っていく感覚は、今までの作品にはなかったものです。記録や記憶の中に入っていきたいという気持ちがあります。奥に進んでいく感覚というか、何かにたどりつきたいと思っています。


高嶋
映像のモニターの横に、地図というか図面が添えてあったのも面白く感じました。映像の中では三次元的な奥行きをもって描かれていた世界が、平面的に処理されて、全体の見取り図として示されています。まるでドラクエの画面のようですね。


以前にも、地図を添えている作品もありましたが(※)、どんどん横にスクロールしていく画面をつなぎあわせた全体像でした。


高嶋
そうですね。スクリーンには今人物が動いている箇所が映し出され、地図は全体を示していますが、両者はともに俯瞰的な視点で描かれており、部分と全体の関係にすぎないものでした。
新作の試みでは、映像の奥へと進んでいく感覚と、全体を見渡す視点とがそれぞれ別個に示され、三次元の世界の二次元への翻訳と、逆にフラットに示された地図から三次元の中へ入っていく往還があって、面白かったです。

 
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