石仏室でまずはストレッチ(中央:みやじけいこ) |
「この作品のこのあたりが…」と力説中。(中央:みやじけいこ)
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けはい の ありか(3回シリーズ/2回目)
TEXT 草木マリ
思い出がひきだされるときって、なんでもないものだったりする。まったく関係のないようなモノゴトがスイッチになって、再生される。
記憶をつつむ景色やことば、いろいろなものの粒が、思い出から思い出へ、つながってはまた、別の記憶へと向かう。
そのルートが複雑で、確かなものであればある程、記憶もまた、深く鮮やかなものになるのかもしれない。
少なくとも、そうあればいいと、私は思う。
その時感じた気持ちをいつか引き出す日のために、たくさんの目印をつけておく。
掌や足の裏、鼻の先や耳の奥に、持てるだけのものを持って未来へ送る。今は散らかったままの今日の断片ーにおい、陽射し、肌触り。温度、湿気、遠い音。誰かのことば、知らない人の肩のかたちーそういうものがずっと先で、いろんな気持ちを行き来したこの日の自分を思い出させてくれる。
「カラダで感じる美術館」は、そんなささいな日常を、ちょっと心に引きとめるためのワークショップ。
(その1をよむ)
その2:一番短い魔法の言葉は、「名前を呼ぶ」ことだとおもった。
写真1/ゴーグルをはめて出発!(右:博物館実習の感じるチーム)
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このワークショップの始まりは、東洋館の石仏室。1日3回、各15人定員の名簿は毎回あっという間に満杯の盛況ぶり。床も壁も天井も石でできたこの部屋で、子供も大人も裸足になってごろりとからだを横たえる。外の暑い晩夏の空気が嘘みたいに、ここはひんやりとして清々しい。背中に硬い冷たい感覚を受けながら、ナビゲーターみやじの声のままに、ひとつひとつ、からだの力を抜いてゆく。さっきより、遠くの音が聞こえる。石と石の間を音は跳ね返り跳ね返りなかなか消えない。別の世界から現実を見ているような錯覚。
夢見心地になったところで、このプログラムのめだま的アイテム、作家みやじ特製「すりガラス・ゴーグル」(写真1参照)を装着。見えるような見えないような、光の在処とぼんやりとした色だけをたよりに、石仏室からお隣の工芸館へ出発!
15人の参加者は5人づつのチームにわかれ、「感じるチーム」の面々をリーダーに、汗ばむ手で前の人の肩をにぎり、すり足でみっつの部屋をめぐります。ゴーグルを着けたままめぐる先々で、それぞれの部屋に「名前」をつけてもらうことになります。
余談ですが…、名前をつける、という行為はふしぎなものですね。自分の外側にあったものが、急に自分の世界のものになる。あらためて考えてみると、自分に名前のついた日のことが感慨深くおもわれます…。
そろりそろりと、探検のはじまり。 |
さて、ひとつ目の部屋はこの館の設計者でもある染色作家、芹沢ケイ介の小さな部屋。床はノーマルなフローリングで窓はなく、すこし薄暗い印象。暑くも寒くもないへや。裸足であるくとぺたぺた音がして、つるつるすべすべ、なめらか。音のかえりは早いかんじ。ここの名前は「ぺたぺたの部屋」とか、「ぎゅうぎゅうの部屋」(部屋が狭いので参加者でけでぎゅうぎゅうでした)などなど。若い柔軟な脳みそからは、あっというまに名前がでてきます。さっきまで限られた視界でびくびくしてたのに、皮膚で感じることにもう夢中。触れることって、シンプルで有意義な行為だなあ、と実感。子供たちはおおはしゃぎです。
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