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立ち上がる ちいさいひと ちいさいひと
TEXT 藤田千彩
PEELERではおなじみのアーティスト・池田朗子の個展が、名古屋・multiple
choiceで行われた。
2階建てのmultiple choiceは、1階がポストカードや雑貨などを販売、2階をギャラリーとなっているスペースである。
3月に東京・kobo&tomoで池田が見せた「サイト・サイト・サイト」とは違う作品シリーズの「their
site/your sight」。DMチラシにあったのは、写真に写った人を切り抜き、ポップアップさせた作品であった。しかし、multiple
choiceで見たものは、全く違う。
階段をトントンと上がって見た「風景」は、「アッ!」と驚くようなものだった。
雑誌の表紙や中に写った人たちを、切り抜き、ポップアップさせている。
そんな雑誌が大量に床に並べられ、重ねられ、部屋全体にインスタレーションされていた。
私は座り込んで、一人一人、立ち上がった人たちを見入る。
あまりに小さい人たち。しかも、薄い(当たり前だが)。
雑誌という情報の渦、それに流されていく日々、中に埋もれる多くの人間の姿。私たちの存在ってこんなモンなんだろうな、と思う。
かといって、私は悲観的には見ていなかった。その中に「生きている」ことを感じ取ったからだ。毎日あわただしく過ごしている生活の中でも、立ち上がる人間。
ポーズを取るモデルのような人、たまたま被写体になってしまった人、笑顔の人など。雑誌の中に存在する生命の力をそっと気づき、一つ一つ切り抜き立ち上がらせる池田の制作に、私は想いを馳せる。
立ち上がり、会場を上から展覧する。巨人や怪獣が小さな人間を踏みつけるような、強い意識になる。宇宙へ飛んで、地球を眺める飛行士の気持ちにもなった。
少し残念だったのは、美術系雑誌が多く用いられていたこと。もっと多くの世界はあるはずだから。
一つの答えを追求するクイズ番組がもてはやされる現代だが、そんな一辺倒の見方だけでは何も見えてこない。池田朗子のインスタレーション作品を通して、視点と視界をさまざまな角度で楽しむことを知った。同時に、いろいろなことを想像することができ、ものの見方は一つでないことを教えてもらった気がする。
※「立ち上がる ちいさいひと ちいさいひと」は、かえるさんが池田朗子の作品に捧げた歌の歌詞より抜粋
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