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ASK? 映像祭2005
 

和田淳「鼻の日」2005

一ヶ月 眼と映像のまつり
TEXT 石山さやか

● 7月○日(晴) 不可思議な世界に浸る
 ASKの映像祭へ。一週目の今日は、昨年のコンペで大賞を受賞した和田淳さんの作品上映を行っていた。奥の大きなスクリーンでは最新作「鼻の日」を上映、
手前の3つのモニターでは過去の6作品を流している。いずれも鉛筆による線画のアニメーションだ。まずはじめに「鼻の日」を見ることにした。
 白っぽい画面、間延びした顔立ちのサラリーマンたちが一列に並んでいる。サラリーマンは順番が来ると壁に向かって走り、壁に空いた穴に鼻を押しつける。そこから彼らはそれぞれの、鼻の快楽の世界へと旅立ってゆく-----。 キャラクターののっぺりとしたそれでいて味のある表情、あってないような不可思議なストーリー、作者本人のものであろう登場人物の吐息や足音。マイナーな漫画雑誌にありそうなシュールな作風だが決して奇をてらっているわけではなく、作者のつくりたいものをまっすぐにつくっている感じがする。他の6作品も、それぞれ独特の世界観があってよかった。私が特に気になったのは「kiro no hito」(2003)。一番ストーリーがくっきりしていて見やすかったし、主人公のおばあちゃんの表情、結末など心に残る部分が多かった。

 
● 7月◇日(晴) 虫の目を体感する
 今週のASKは映像の上映ではなく、武蔵野美術大学教授・陣内利博氏による体験型ワークショップ「複眼体験」。『映像祭』のはずなのになぜワークショップなんだろう…と少し訝しく思いながらの参加。
 「複眼」とは小さな眼がいくつも集まってできている昆虫の眼のこと。そして「複眼体験」とは紙でできた球状の「複眼装置」を被ること。三角形の組み合わせによってつくられたいわゆるフラードームであるこの装置には一つの三角形に一つずつ、小さな穴が空いている。これを被ると沢山の穴から見える世界がすべて上下左右逆に見える。それは虫たちがいつも見ている世界に近いものだというのだ。説明だけではうまく理解できなかったので、とにかく被らせてもらう。視界のあちこちから等間隔に、光が漏れてくる。「では、右手を下の方から出してみてください」陣内さんの指示に従うと、穴から見える自分の右手は左から出てきた。頭ではわかっていてもやはり戸惑う。「では次に、この視力検査用の記号を手でなぞってみてください」天井を歩くような感覚でふらふらと移動。壁に書かれた記号は大きいのだが、手の位置がつかめず難しい。やっと記号に触れることができても手は実際と逆の方向へ伸びてしまい、なぞるのには時間がかかった。 例えば、人の眼球もひとつのスクリーンだと考えられる。そして虫も、イヌやネコもそれぞれのスクリーンを持っていて、それぞれに見ている景色は同じでも投影される画像(視界)は違うのだろう。この装置でそれを体感することができた。世界にはいろんな言語があることを初めて知ったときのような気分だった。

上)複眼装置を身につけたところ
中)複眼装置
下)「複眼体験」DM


● 7月☆日(曇) 新人たちの作品
 3週目の今日はプログラム上映会。久里洋二、浅野優子など著名なアニメーション作家の作品の他、しりあがり寿、鴻池朋子など他ジャンルで活躍するアーティストの作品、また今年のコンペ入賞作などを入れ替え制で見ることが出来る。ASK映像祭の目玉とも言える週だ。 私はこの日、関口和博作品、田名網敬一作品、そして今年の入賞作の3つの回を見ることができた。関口作品、田名網作品はやはり個性が際だっていて見応えがある。対して今年の受賞作品は、綺麗で見やすいけれど薄味なものが多い気がした。もちろんキャリア何十年の大ベテランと新人の作品を比べること自体無理な話だが、でも先々週に見た和田作品のように強い作家性を持った作品は今年は見受けられなかったように思う。 個人的には谷岡昭宏の「organic machine」の描き込みに引き込まれた。寺田めぐみの「愛の部屋」はブラックユーモアが効いた短編集で面白かったが、人物の造形や漫画的表現で、少し見にくく感じるところもあった。
 入賞作7点は実写・フルCG・人形アニメなど表現方法も多種多様だ。昔より表現の幅が広がり、パソコンの普及でアニメーションが作りやすくなった分、いまの作家にはよりオリジナリティが求められているのかも知れない。

A
B
C
D
E
A)アスク映像祭2004年度入賞者作品上映 会場風景 スクリーンの作品は板垣賢司「golden water」
B,C) アスク映像祭2004コンペティション大賞受賞者展 会場風景
D) 須藤忠隆「Water Melon Suger」2005
E)山崎涼子「3dimensions?」2005
● 8月□日(晴) そして来年へ
ASK映像祭もいよいよ最終週。昨年の入賞者3人の受賞作と新作を上映する。
 久里洋二賞を受賞した須藤忠隆の新作はミュージッククリップ風。実写の歌手の前にCGで描かれた草木が伸び蝶が飛び回る。安心して見ることのできる商業的な映像といった印象。ASK?賞受賞の山崎涼子は、「牛骨君」というキャラクターの日常を描く。線画のアニメーションは見やすく牛骨君は愛らしいが、各々のエピソードの最後に挿入される格言は的を射ていて意外と奥が深い。
 そして、西村智宏賞受賞の板垣賢司。彼の作品が一番独創性に溢れていたように思う。不透明絵具を使って描かれるのは、建築物のない惑星のような世界と、そこに暮らす人たち。顔のない人たちはそれぞれ飛び跳ねたり寝ころんだり、水に潜ったりしている。ストーリーも曖昧で音も一切ない作品なのだが、作品に漂う空気感が心地よい。
 惜しかったのは彼だけ新作がなかったこと。3人の中では彼のみが社会人。職業に就くと時間のかかるアニメーション制作は継続が難しくなるのだろうか。
 今年のコンペで受賞した4名は、来年の映像祭で彼らのように新作を発表することになる。画廊がコンペティションを行い、次の年に受賞者の作品を上映するというこのシステム。今年ようやく正式に動き始めたばかりだけれど、新しい映像アーティストの発見・育成に大いに役立っていくだろうし、また長く続いていくことでこのコンペならではの特色が出てくればいいと思う。

ASK? 映像祭2005

art space kimura ASK?
2005年7月11日(月)〜8月6日(土)
■ PART. アスク映像祭2004 コンペティション大賞受賞者展 和田淳「鼻の日」
7月11日(月)〜16日(土)
■ PART.陣内利博プロデュース「複眼体験」
7月19日(火)〜23日(土)
■ PART。.アスク映像祭2005プログラム上映
7月25日(月)〜30日(土)
■ PART「.アスク映像祭2004年度入賞者作品上映 須藤忠隆 板垣賢司 山崎涼子

参照
PEELER'S COLUMN#01/ギャラリーが「映像コンペティション」をする時代

著者プロフィールや、近況など。

石山さやか(いしやまさやか)

1981年埼玉県生まれ
2003年創形美術学校卒
現在フリーター。イラストと文章少々書けます。
現代美術はまあまあ好きです。


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