topcolumns[ベルリンアート便り]
ベルリンアート便り
   
  ネザケ・エキシによるパフォーマンスのスチールが並ぶ

駅を世界最大の現代美術ギャラリーに変える

 NGBKは自らのスペースだけでなく、ベルリンの主要な駅の一つであるアレキサンダープラッツ駅の構内を使ったプロジェクトもオーガナイズしている。
このプロジェクトは、1958年に行なわれたポスター展がきっかけとなっている。その後、20数年のブランクを経て、1981年からは世界平和などのテーマに沿ったポスターの公募展示が行なわれていた。東西ドイツ統一後、1992年より彼らがオーガナイズをまかされるようになった。アーティストは公募で選ばれ、U2線構内にある36個のビルボード(広告掲示板)で3ヶ月間にわたって、平面作品が展示される。近年はビルボードだけではなく、構内でのインスタレーションやパフォーマンスも行なわれるようになった。展示される作品の内容は様々である。消費社会の闇を描くマーク・ブランデンブルグの絵画、電車がホームへ入ってくると、突然映画の効果音のような音が流れ出すアイゼ・エルクメンのサウンド・インスタレーション、通路に「擬似」キャットウォークを作り、通行人をファッションモデルに見立てるハイケ・ハマンのインスタレーションなど、駅という機能と効率を中心に構築された空間を異化するような作品が多く見られる。

Q.美術館ではないところで作品を見せるということについてどう考えていますか。

A.まず、駅が世界で最大の現代美術ギャラリーになってしまうことが面白いと思っています。一日22時間オープンしていて、12万人が利用する駅です。12万人が商業的な広告ではなく、現代美術に出会います。
美術館やホールなど、そこで何が起こるかはみんな予想ができている場所でやるのと、駅でやるのでは全く違います。アートは公共の場では、驚き、コミュニケーション、いらだち、好奇心、偶然の出会い、挑発、喜びなど、一つ以上の意味を持ちます。なぜなら、それらは日常的な現象や経験に属さない戦略と手段で行なわれるからです。そこには作家のネームカードも額縁もありません。ストレートに人々の目に飛び込んできて、印象深く影響力を持つのです。
現在は、これまでのプロジェクトを総合的に評価する段階に来ています。2000年に州の補助金が打ち切られ、このプロジェクトが終るという話が持ち上がった際、いくつかのメディアが通行人にインタビューをしたのですが、それらの多くは、「広告よりもアートを」というプロジェクト継続を支持する声が圧倒的だったのです。


 
 
マーク・ブランデンブルグの作品 ハイケ・ハマンの作品。突然スポットライトが点灯し、歓声が上がる
 
   

様々な問題の突破口をめざして


 NGBK -Neue Gesellschaft fuer Bildende Kunst-とは、日本語に訳すと、「視覚芸術のための新しい社会」という意味である。彼らの活動は、視覚芸術の為の新しい社会を模索するべく、今起きている社会問題とアートを融合させアートそのものの追求と同時に、それらの問題を提示する場や語る場のアレンジを行なっている。啓蒙的な発想で上から下へ与えられるのではなく、当事者たちも手探りしながら進んでいくという真摯な実践の姿がそこにはある。
美術作品は、立法にも政治的なアクションにも取って代わることは出来ない。しかし、それらが人々に及ぼす影響は、アートという分野に留まることを制限されているわけでもないし、文化活動の域に留まることを制限されているわけでもない。
社会の姿を新たな視点から眺め、改めて認識しようとする行為をアートの使命と重ねて捉えるNGBKの態度は、問題の多さに窒息していきそうな現代社会に風穴を明けているのかもしれない。


 
 
 |  (前のページへ)
   
     

topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.