すっかり時間がたっているので、口に入れても歯ごたえが鈍い。だが次の一枚は、最初のものほど湿っていない。箱の中を無作為に選びとってかじってみる。そこに法則はなかった。端のほうの列にもカリッと乾いたものがあり、中央の枠にはいった三枚を比べても、ひとつひとつ水分の含みかたに違いがある。あるものは容赦のない浸食をうけて衰弱し、あるものは思いがけず消耗をまぬかれた。
アソート・クラッカーの箱をかかえてその日の午後に確認したことは、つきなみの無力さと、ほどけるような安らぎだった。
小川良子 思いつきで書いた断片的な小説より