突然やりきれない気持ちになってエスカレーターに飛び乗った。地上が取り返しのつかない事態になれば、いつでもエスカレーターで脱出することができる。一歩ふみ出したら、あとは自動的に新しいステージが目の前に開かれる。逃げ出した事実などまるでなかったように、優雅になめらかに。 エスカレーターのギザギザが床のすき間に吸いこまれていくのを見ていると、視野にモアレが起きて、うす緑や紫色の幾何学模様を次々に吐き出した。 小川良子 思いつきで書いた断片的な小説より