top\special[わたしのまちのアート/沖縄]
わたしのまちのアート


沖縄県
ゆるい身の魚たちが群れをなして泳ぎ回る。
TEXT 岡田有美子

 沖縄の冬は思ったよりは寒いが、油断すると暑い。海風が驚くほど冷たいと思ったら、次の日にはぴたっと止んで汗ばむ日もあり、そんな日は半袖の人にたくさん出くわす。そんな訳で、沖縄の海に身の引き締まった魚がいないように、身の引き締まるという感覚になることが、日常生活においてほとんどない。九州以北にて真冬の朝吐く息が白く、はりつめた空気で育まれるような、ぴりっとした俊敏な感覚が立ち表れることがここで生活しているとないような気がする。

 そのためなのか、沖縄のアートは身がゆるい、と思うことがある。あまり誉められたことではないように思われるかもしれないが、けなしている訳ではない。
 身の引き締まった魚がいなくておいしい鮨をまだ食べたことがないが、色はカラフルで唐揚げや天ぷらはおいしい。要はどう味わうかである。

ゆるいポイントその1
『新天地市場』

新天地市場所在地 沖縄県那覇市壺屋1 ゆいレール「牧志」駅より徒歩20分

 那覇市の観光地国際通りから、脇の商店街へはいり10分くらい歩いたところにあるその市場は、沖縄で戦後初めてできたといわれる繊維の市場で、すこし高床になっているところにおばあたちが、それぞれの持ち場にちょこんと座って下着や浴衣やおばあたちの着るワンピースなどを売っている。しかし、お昼すぎに通るとだいたいのご婦人がもやしのひげ根とりに、それが規則であるかのようにいそしんでおり、さっきまで売り物のパンツがはいっていたであろう紙箱なんかに、もやしがつぎつぎと散髪されすっきりした顔をして収まっていく。
 ここの傾いたつぎはぎの高床式建物とおばあたちの光景を見て、あーおなかいっぱい、と帰ることなかれ。よく見ると、自然に溶け込んだ台湾の芸大生たちの作品があるのだ。2004年12月、国立台北師範学院芸術専攻の学生たちが卒業制作展を沖縄でやりたい、ということで台湾出身で沖縄在住のアーティスト、鄒素芬のコーディネートで実現した。未だに学生がおいていった作品が落ちながらもそのまま展示してあったり、学生のつくったおばあの人形が誇らしげに柱につるしてあったりする。おばあたちは展覧会をものすごく誇りに思っているらしく、行くといつも「あんた台湾の学生ね?」。だから違うって… 台湾の学生だとしても日本語で聞いても…「して、あんたどこからきたね?」「前島だよ」「前島ていったら…」……
 こうして、どんどんおばあの思い出話は広がっていくので、行かれる方は沖縄時間を持って行っていただきたい。ここでの作品鑑賞は、おばあ抜きでは成立しないのだ。

 
この建物は、作品ではない。と思う。
 

あれ作品ではないよね?とよく聞かれるスナック前のねこ。民宿1500円って…
ゆるいポイントその2
「前島三丁目地区」

前島3丁目 沖縄県那覇市前島3 ゆいレール「美栄橋」駅より徒歩10分

 前島アートセンターのある、前島三丁目は那覇の中心地から徒歩圏内のさびれたスナック街である。塩田を埋め立てた港町で、派手なスナックの看板や絶滅したはずの客引きがそこかしこにいて、女の子が一人で歩くのは…というような場所だが、実際はわりと平和で客引きも、ほとんど客引きを放棄していて、道の角のいすに座ってのんびりしている。自由な建物、なんだかわからないビニールのねこ、本物のねこ、キャラクターの濃い住人たちに埋もれてしまいそうになりながら健闘しているのが、前島の路上に残る作家たちの作品。ここにおいてはアーティストの作品も異質ではない、ちゃんぷるー地区である。

「のぼる」というスナックの前にある、マスターのぼるさんの人型。一見防犯立て看板のようだが、昔の「前島三丁目ストリートミュージアム」の名残。足下にはキノコが

 お店の店先に生えるきのこは昨年11月に行われたwanakio2005の仲本賢企画「前島三丁目ストリート系ミュージアム」参加作品 呉屋藍子「キノコの家」。
ストリート系ミュージアムの出品条件は
1)24時間誰でも見られ、こっそり街に溶け込むようなもの。
2 )制作費自己負担、搬入搬出各自。
3 )紛失、破損などの管理は各自で行い、各自修復、再制作をする。 など
案の定、一日で無くなったものも… 見られた人は伝説。

 
葉の量にしては、幹細いなあと思って近づくと…
 

幹にみえていたのは、壁の向こうから排水溝をつたって溢れ出して生えた木の根っこ。恐るべき生命力。

 植木鉢と木の恊働で生まれた「植木鉢を自給自足する木」。プラスチックの植木鉢は役目を終え、無くなりつつある。『ふみや』という琉球料理屋ヨコ。ここのフーチバージューシー(よもぎ炊き込みご飯)はやみつきに。


 アートセンターのビルのゴミ捨て場にある、ストリート系ミュージアムの名残、石垣克子「Open the Door〜コルクな仲間」。こっそり街に溶け込むのがコンセプトであるのに、ゴミ捨て場の中といえども、ものすごく目立っている。押さえてゴミ捨て場の中を選んだのかもしれないが、彼女の創作意欲は溢れ出して、企画の意図を超えてしまった。だが、さすがはこの島、問題ないみたい。
 会期中は電飾もきらきらして、そのうえゴミ捨て場の中に石垣自身が常駐し、コルクを使ったワークショップを開催。どんどんコルクの仲間が増えていき、ビルの住人からは「きれいすぎてごみが捨てられない。」との苦情?多数。


 同じくアートセンターの外、道の曲がり角にある標識。ん?崖崩れ?と思ってよく見てみると岡本光博の作品「落米のおそれあり」。

 その他、アート展に触発されたラーメン屋のご主人が突然作ったアーティスティックな椅子、どう考えても変な看板など、アートなのかアートじゃないのかよくわからないもの満載の前島。ゆるい身の魚たちの群れに襲われても、慌てて刺身で食べないようにして下さい。

ゆるいポイントおまけ
「大通りから一本はいったスージグワー」

 スージグワーとは、小さな道のこと。那覇市のまちなかには、人通りの多い大通りから一本裏にはいっただけで、異空間につれて行ってくれる細い路地がたくさん残っている。懐かしさの残るスージグワーにあてもなくはいってみると、急に静かで、くねくねしていて、必ず面白いものに出くわす。スージグワーは裏切らない。道の交差する所の片隅に、必ずといっていいほどおいてあるお守りの石巌當(いしがんとう)もひとつひとつ違いおもしろい。

 例えば、国際通りの、あるおみやげ屋横の隙間に突如あらわれる短い階段を上がると、まちを裏側から見られるこんな光景が。お墓から、マンションが生えている。
ゆるい身の魚味見していただけましたか?
沖縄は県立美術館のない県(只今建設中)なのですが、美術館へ行かなくともアートらしきものにたくさん出会えます。
ガイドブックはおいて、感覚を研ぎすませ一本裏道へどうぞ。
   


著者プロフィールや、近況など。

岡田有美子(おかだゆみこ)

1982年 愛知県生まれ
武蔵野美術大学 芸術文化学科卒
現在 NPO法人前島アートセンター職員
http://mac.gosenkobo.net

沖縄県民でも、観光客でもない立場から沖縄のことを紹介したいと思います。
不幸体質な楽天家。





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