つなぐ
〜根っこのカクレンボ〜
TEXT 田多知子
淺井が描く。白いテープを手でちぎりながら、こぎみよくリズムを刻んで貼ってゆく。身体の傾きを正したり、手の動きを支えるために頭を動かしたり。あまり見てはいない。ただ、身体から出てくるものを頭に経由させ手に届かせる。後は身体に任せている。その後で、黒いペンをもって描き始める。こちらも直感と身体に任せている。時々は離れても見る。鳥もいるし、たまには猫もいるし、蛇や、オオカミも時々いる。草もあるし、実もある(図1)。
淺井裕介は、「マスキングプラント」という制作を2003年より続けている。まず、マスキングテープを小刻みにちぎって貼り、下地を作ってゆく。その上にペンで植物を描いてゆく。壁、窓、天井、床、電車の中、屏(図2)。ありとあらゆる場所が、彼にとってはマスキングプラントが育つ場所になり得る。彼は、幾ばくかの時間−それは場所や企画によって異なる−をかけて、植物を育てる。植物が充ち満ちて、全部が育ったとき、彼はそれを剥がしてしまう。「収穫」と名付ける。その一連の流れが、マスキングプラントという作品だ。
平成19年8月17日から12月25日まで、4ヶ月強、延べ132日間に渡り、横浜美術館において淺井裕介は制作を行った。「根っこのカクレンボ」と命名されたこの展示は、横浜美術館の新企画New
Artist Picksの最初の企画として始まった。通常展示会場として使われていない多くの場所に、彼は描いた。そして、本人にも予想のつかないほど大きなプロジェクトとなって、最終形を迎えた。これはその大きく長いその展示の全貌の一部をドキュメントとして残す試みである。この文章は、主に淺井と担当スタッフへのインタビュー、また淺井の
ブログにある記録をもとにして、書かれている。