未来へと進むしかない私たちは
TEXT 近藤未来
夏の日差しがさんさんと射すなか、出迎えたのは大きなパラボラアンテナ。
それは作品『親子の庭』だった。
大きなパラボラアンテナの庭の上に、小さなパラボラアンテナの庭がすっくと、立っていた。それらの庭の緑が眩しい。
「安定感や安心感とは、一体何から作られているんだろう」
会場内には乗り物をモチーフにした作品が並ぶ。
それらは自動車や自転車、バイクなど誰しも見たことのある乗り物が使われているが、國府理の手にかかると風貌は一変する。
もちろん見た目も機能も変わるが、何よりただの「乗り物」から、“意識を持つ乗り物”へと変貌するのだ。
《Mental Powered Vehicle》 |
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乗り物は人間が速く、遠くへ移動するために作られた。
それらの乗り物も人間が移動するためにも使える。しかし、人間の思う通りにそれらの乗り物が“意識”を合わせてくれるのか。
こちらの都合ばかりではいけない。あちらにも想いがある。
展示スペースへ向かう通路上に、でん。と鎮座していた『Mental Powered Vehicle』は強くそれを感じさせた。
この頭についているプロペラが回るのだが、ただスイッチを入れたら回るのではない。ハンドル部分に内蔵されている「テルミン」という電子楽器に人間が手をかざし、反応させなければならないのである。
私も体験させてもらった。
しかし手をかざすも、しばらくは動かない。
「私では動かないか……。」
そう思いあきらめて、手を引っ込めようとした少しあと、ブンブンと音を上げゆっくりとプロペラは回り始めた。
自然とフロントガラス越しに車内から、回るプロペラを見上げる。
「ハア、動いてくれた。」
ただプロペラが回っただけなのに少し、ホッとして嬉しくなる自分がいた。
《未来のいえ》
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「通じ合うのは人間同士でしかできないのだろうか、いつも身近にあるモノとは、できないのだろうか」
「未来のいえ」という展覧会の名前の通り、その名の作品があった。
少し広めの展示室をかたかた、といいながら動いていた、『未来のいえ』。
音の正体はキャタピラ。そしてそのキャタピラが運ぶもの、それは全面透明の温室だ。
温室の中には本物の植物が植えられており、池まであった。
中に生物はいなかったが、何か居てもおかしい感じはしなかった。
しかし、人間がいたらきっと似合わなくて、おかしく感じてしまうだろう。
それほど人間は、植物と自然と離れてしまったのだろうか。一体いつから。
人間が望んでのことかは分からないが、自然との生き方を大きく変えて進んできたことは確かだ。
眺めている間ずっと、『未来のいえ』は進み続けていた。
温室と中の植物を震わせながら。
《ROBO Whale》 |
「人間と自然とのあり方。動物と人間、機械とのあり方、難しく捉えているのは人間の方だけなのかもしれない」
機械の一部一部から作られた作品『ROBO Whale』は、暗い部屋の中、小さなライトに照らされながら静かに、しかし重厚な存在感を際立たせてそこにいた。
太古の遺物のようなその姿。
かつて住んでいた海のことはどれくらい覚えているものなのだろうか。
背中のプロペラで自由に空をも飛びまわることが出来るらしい。
その、海の中にいた頃のように。
そして『ROBO Whale』の鳴き声が聞こえた気がした。
会場を出て、出迎えてくれた『親子の庭』をもう一度見上げた。
やはり小さなパラボラアンテナの庭は、大きなパラボラアンテナの庭の上ですっくと立っている。
倒れないように、見守るように、広い庭で小さなそれを包みこみ、支える。
今を生きる私たちは、未来へと歩みを進めることしか出来ない。
たった独りで出来ることが多くはなったが、関係を断って生きることは誰ひとりできない。
人間とも、自然とも、機械とも。
人間はこの地球の中で、歴史の中で多くのモノを作ってきた。
それは安定した生活を送るため、安心して生きるため。
その歴史が今、人間自身を脅かそうとしている。
人間はこのまま何もせず苦難の未来へ向かうのか。
いや、もうすでに向かっているのかもしれない。しかし。
「人間には感じて、考えて、表現する力があるだろう」
そんなことを言われた気がした。
きっと恐れているだけで、ただ未来へと進んでいくのではダメなのだ。
そう感じさせられるのであった。