topreviews[「ある風景のはなし」There Once Was a Landscape/広島]
「ある風景のはなし」There Once Was a Landscape
風景〜彫刻家たちの語り口
TEXT 友利 香
 
《宮島鼠》

そもそも「風景」とは何だろう。視界に現れる美しいもの、特別なもの、それとも記憶が留まる時間の場所だろうか。
本展は「風景」をテーマに、「境界線のない風景をどのように彫刻作品として成立させるか」をテーマに制作を続ける伊東敏光、目の前に現れたものから感じる気配からそのものの存在を考察する長岡朋恵、テキサス(アメリカ)の伝統的な暮らしを漂わせるクリスパウエルの3作家で、構成されている。

■伊東敏光
伊東敏光の《宮島鼠》。広島県宮島が鼠の形に見えたことから、その形をフレームとして宮島の要素を盛り込んだ作品。廃材1枚1枚の大きさや色・木目の差異を綿密に計算し組み合せ、さらに彩色を施すことで、ひとつの彫刻が近くからも、遠くからも周囲360度どこから見ても「風景」として成立している。伊東が「風景を彫刻作品として切り取ると、その縁の部分も風景となってしまう。実際の風景には縁はない…。」と抱えていたフレームの問題を解決させた1点である。


《AA60》

広島市立大学芸術学部では昨年夏、テキサスと広島との芸術交流を目的に「サン・アンド・スター展」という展覧会を両地で開催した。この作品は、伊東が成田-ダラス間を就航している旅客機「AA60」に乗り、テキサスへと向かう機内から見た風景である。
旅客機の右翼にテーブルマウンテン、左翼にはアリゾナの地形、前部分にはサボテンが載っている。機体の胴体部分に広島大学旧図書館の梁(被爆材)を使用することで、これは紛れもなく広島からアメリカ行きの旅であることを確証させる。機体は、置かれた角度と広げた翼で揚力を、これを支える太く地に置かれた台座で重力を獲得している。これらは未知の世界への期待と興奮、収穫と記憶の重量を語るに十分である。伊東は「非常に個人的な作品で・・・」と話したが、作家の旅の全てが織り込まれた機体は、観客に追体験させる作品に仕上がっている。


《のぞみ》「撮影:鹿田義彦」

トンネルから「のぞみ」が出る瞬間の作品。容赦なく2つに割られ、亀裂が波立つ胴体が、列車のスピード感・走行音や衝動波・外気を切る圧力波までを喚起させる。動かざる山(自然・悠久)とその中を高速で走る「のぞみ」(人工・人間)の、縦線と横線とで対照的に出現する風景は、人類が生きていくということの一つの象徴的な風景でもある。


《ポックルの森》

■長岡朋恵
普段の風景の中に突然驚く発見をしたり、ふといつもと違う気配を感じることがある。長岡朋恵はそうした感情を大切にし作品で表現している。

《ポックルの森》は、箱の中に納めた森の風景。否、神社だろうか。水道の蛇口が印象的だ。水は生命の源でもあり、ここが侵し難いあちらとこちらの間にある世界であることを暗示する。ゴムチューブの結び目が、聖域への畏敬の念を倍加させる。



《タニシのこと》

家屋に設置された電力量計内部の回っている円盤は、「居住者有り」の証となる。作家は、計器から壁面に付着するタニシを思い浮かべたのだろう。水質に敏感な生物であるタニシは、生存可能な環境の指針となる。


《トンチキの眠る山》(壁の作品。手前の作品は《それでもみんな巣をつくる》)

作家が対岸に連なる山々を見た時のインスピレーションで生まれた作品。素材は鉛。その黒ずんだ色合いが、夜の風合いを醸し出している。垂直に垂れる鈴に深い静けさの音を聴く。この鈴でトンチキを呼び寄せるのか、それともトンチキが目を覚ました時に鳴るのだろうか。「白と黒」「平行と垂直」「静寂と音」、こうした対比の駆け引きが古くから伝わる土地の話を想像させる。

その他、《カラカラの道》《盆地フォンデュ》《結局、餅が降る》など、タイトルから受けるインパクトも長岡作品の特徴である。


《子羊と丘/lamb and hill》


《牛と木と丘/cow,tree,and hill》
■クリス・パウエル
テキサス在住のクリス・パウエルの作品は萩焼のような肌を持つ陶器で、小作品でありながら会場全体に土の息遣いを漂わせている。作品からは、大地・空・風・水・火・動物などの自然と共に暮らす日々への感謝と喜びを窺い知ることができる。

作品は風景と作家との関係を提示し、さらには、作家が目にした風景の見えない部分を知らず知らずのうちに身に纏い、血肉としながら生きていることを語っている。
お話はまだまだ終わらない。続きはそれぞれの血肉の奥で展開していく。

「ある風景のはなし」There Once Was a Landscape
2013年6月6日〜7月15日

泉美術館(広島県広島市)

 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)
今秋宇部で開催される「まちなかアートフェスタ」のお手伝いをしています。





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