「売れる」は作品の価値基準のひとつ
TEXT 藤田千彩 PHOTO ノモトヒロヒト
いまやアートマーケットを語れなければ、現代美術を理解しているとは言い難い。
作品が「おもしろい」とか「テクニックがすごい」という評価軸に、「売れる」ということでもポイントが高くないと、世界に通用する作家とは言えなくなっている。
タムラサトルは、PEELERでもよく取り上げてきた作家のひとりである。
思えばPEELERを立ち上げた2005年、
「接点」シリーズの第一弾を見た。
パンタグラフが動くことでスイッチが入り、蛍光灯や電球が狭い会場でまぶしく明滅した。
ときどきパンタグラフからも火花が飛び散り、危険を感じながら鑑賞するという体験がおもしろかった。
やがて
「接点」シリーズは、スイッチ部分は金属の棒と金属の板となった。
光るものに引き寄せられる動物的本能のためか、普通にキレイと思えてしまうためなのか、見飽きることがない。
作品の接合部分や磨かれた素材といった細部のテクニックにも、感心してしまう。
この作品は
「あいちトリエンナーレ2010」にも展示され、鑑賞者数は一日あたり数百人を数えた、という。
そんなタムラに足りなかったこと、それが文頭に書いた「売れる」ということであった。
昨年夏の「アート大阪」で、マシーンシリーズという別の作品群を見せた。
今回の展覧会では、関西で初めて「接点」シリーズを紹介した。
さらに会期中である3月半ば、ニューヨークでのアートフェアや、アートフェア東京にも出品した。
所属ギャラリーであるTEZUKAYAMA GALLERYのオーナーはこう語る。
「ニューヨークのフェアでは、販売したのは1点のみでしたが、かなり多くの人たちが興味を持ってくれました。
現代美術の中心地であるニューヨークで、かなりの存在感を発揮していました。
まだ海外での発表の機会は少ないので、これからもどんどんタムラサトルを見せて行きたいです」。
日本人のキュレーターが企画しても、海外で展覧会を行うことはまだ少ないし、どれだけの反応が得られたか分かりにくい。
かたや日本のギャラリーが海外のアートフェアに出品することで、海外で作品を見せることができ、「売れる」という評価が与えられる。
アートマーケットとは、現代美術の価値を決める分かりやすい場なのだ。
とはいえ、何事においてもバランスは重要である。
「売れる」だけが、作品の評価ではない。
しかし「売れる」ことが、作品や作家を知ってもらうチャンスであることも間違いではない。
これからのタムラサトル、これからのマーケット、これからの日本のアートが、どうなるのか、まだまだ目が離せないと思う。