《Untitled》 紙 each/7.5×5.5×5.7cm 2012年
会場風景 撮影:河田政樹
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写真や既成の布地に描いた絵画、鉢植えやベンチ、音楽やラジオの音を配したインスタレーションで知られる河田政樹。美術とそうでないものの境界を手探りしながら、美術とはなにかを問い続けている。
今展でまず驚かされたのは、折り紙による彫刻作品。一見、手でくしゃっとさせてそのまま展示台に置いたかのようだが、ひとつの展示台に置かれた複数の作品がほとんど同じ形であることに気づいた。作為なくつくったものが同じ形になることはあり得ないし、無造作にできた形と同じになるようにつくるのは至難の業だ。どのように制作したのか尋ねると、折り紙を数枚重ねて形をつくり、それをいったん開いて、折り目やしわを頼りに元の形を再現していったという。それらが似ているもののまったく同じではないことや、紙の枚数が多くなるにしたがって外側の紙ほど折り目やしわが出にくくなるため、つくりが甘くなっているのが頷けた。河田によると、地球上からは二次元に見える星座には奥行きがあるはずで、三次元としての星座をイメージしたという。
会場風景 撮影:河田政樹 |
《Untitled》 ブループリント 29.7×21.0cm 2012年
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一方、展示室の壁の一面には、自宅の庭の植物に感光紙をかざして制作したという青焼き30点が配されていた。青焼き独特のブルーの階調に、葉の隙間から差し込む光や、葉の重なりや枝の連なりが濃い影となって表れたさまから想像されたのは、手入れがされずに伸び放題の鬱蒼とした庭。以前の展覧会でしばしば会場に持ち込まれた鉢植えは、河田の自宅の庭でずいぶんと成長しているはずだ。今回、実際の植物が会場に配置されてはいなかったが、青焼きに写された植物の前に立つうちに、成長した植物に囲まれているような気持ちになった。
河田にとって初の取り組みである彫刻作品は、青焼きやカラー写真、紙や植物柄の生地に描かれた絵画との関連が見出しづらいが、写すという点で一貫している。対象を感光紙や印画紙に写すこと、布地から写し取った植物の形を描くこと、紙の折り目やしわを別の紙に写すこと。自分自身のイメージを絵にしたり、立体にすることに比べると、間接的でかえって手間がかかる作業でもある。しかし、そうした工程を経て初めて、星座が何億光年といった気が遠くなるような空間に存在するという、世界の見えづらさも見えてくる。白い布に白い染料でプリントされた葉の絵柄が、オイルパステルで別の植物が描かれたことにより浮かび上がるのを前にして、あらためてそう感じないではいられなかった。
《Untitled》 紙にオイルパステル 54.0×38.1cm 2012年 |
《Untitled》 布にオイルパステル 41.0×31.6×d1.7cm 2012年 |
会場風景 撮影:河田政樹 |