異類同居の手術台
TEXT 友利香
4月16日北九州市八幡東区に「アートスペースOperation Table」がオープンした。
オープン第一弾の展覧会テーマは「Homage 高倉健 - 手術台の上の花とドラゴン」。
出品作家は青木野枝、狩野哲郎、祐成政徳、鈴木淳、多田友充、中ザワヒデキなど、錚々たるメンバーである。しかしこれを聞いて首をかしげてしまった。
まずはテーマについて。「花とドラゴン」は若松(現在北九州市)を舞台とした高倉健主演「花と龍」だろう。加えてこの映画の原作者火野葦平が北九州市生まれということから、テーマの表裏は容易につながる。しかし、なぜ今「高倉健」なのだろうか?という疑問は残るし、出品メンバーの世代、個性など「高倉健」や「花と龍」にどう考えても結びついていかない。そして「手術台」とは、どんなスーペスなのだろうか?
Operation Tableは元動物病院建物。展示室は照明や調度品などの細部まで手を加えられていないままの診療室で、医療現場とアート現場が互いに両極の特質を際立たせている。
《手術台の上の高倉健》鈴木淳
さくら吹雪の映像作品併置。
写真、メンディングテープ、ビデオ 2011年
鈴木はおよそ200枚の高倉健主演映画のスチール写真(映画館の広告用)を用意し、これらを映画の初上映年代や主題、高倉の役柄ではなく、場面を分析・類型化した分布図のような構成でコラージュした。こうすることで映画の役柄とは違う高倉像が浮かび上がってくる。。
中ザワヒデキ バカCG 「高倉健」 2011年
見てのとおりCGで制作された高倉健の肖像と「花と龍」の文字・昇り龍。「硬派もバカCGにかかるとこうなります」といったような中ザワのウマさに、にんまり。「只今ここで上映中」と客を引く、新鮮リアルな感覚だ。
多田友充(3点とも)「無題 高倉健」41.0x29.5cm 白亜磁、水彩色鉛筆、水彩パステル、紙 2011年
多田友充は、高倉健も火野葦平も、そういった時代もほとんど知らない世代で、作風も「おとこ気」とは遠いところにある。多田は、紙に白磁亜を塗り水彩色鉛筆を用いて強固な絵肌を作り上げ、任侠世界を描いた。
濱田冨貴「脈管」「門」「肺」「種」4点とも 5/20 アクアチント 74.0x42.0cm 2011年
濱田が描く(刷る)エロティックな植物の種子や花芯は、人生の修羅場を呑み込んでいくしたたかな刺青の肌の世界へと誘い込む。
当スペースのオーナーは、北九州市立美術館や国際芸術センター青森ACACで、永年学芸員として活躍してこられた眞武真喜子さん。今回の展覧会テーマや作家選出、「手術台」の意味について尋ねると、
「Operation Tableの企画方針は個展ではなく、複数の作家を採りあげ、できるだけコンテンポラリー・アートやアーティストの活動と直結しないテーマを設定する。アーティスト同士のこれまでの活動も、とりわけ近いものと限定しない。
意外性のあるテーマやアーティストの組合わせにより、より個々のアーティストの位置が顕わになると同時に、あらたな側面も見えてくる。ロートレアモンの詩の一節『手術台の上のミシンと蝙蝠傘の出会い』がアーティストにひらめきを与え新しい感性や思考が拡がっていった20世紀初頭の例を参照したい。
もうひとつは、北九州に関連したテーマ、北九州に縁のある人物や場所をとりあげる(※注)。これにより、上記にあげたように、アーティストに直結せず、アートの外につながっていくテーマが浮かび上がると思った。」とコメントをいただいた。
眞武は青森から帰郷後、当地でレジデンスの受け入れを開始し、すでに北九州のアートシーンに参入していたが、この展覧会を皮切りに、眞武真喜子一個人としてのストレートなアクションが始まった。
※注)高倉健は北九州生まれではないが(中間生まれ)、北九州の学校に通い、北九州には多くの知人友人がいる。また生家は石炭産業と関わりをもち、北九州出身、昭和初期の芥川賞作家、火野葦平の作品「花と龍」に通じる世界で幼少期を過ごしている。映画「花と龍」は1969年、マキノ雅弘監督、高倉健主演、撮影は北九州市若松。