さよなら3号倉庫
ありがとう3号倉庫
TEXT 友利 香
2000年12月のオープン以来、若いアーティストの制作発表の場として注目されてきた「3号倉庫」が、その10年の歴史を閉じた。クロージングの展覧会には、アトリエの歴代メンバー23名の作品が並んだ。
倉庫入口風景
寺江圭一朗(映像作品)の、映画小屋風な見せ方に好感が持てた。
《未明》水転写紙、白砂
倉庫の高い壁面を使った作品。1階と2階をつなぎ、会場をひとつにまとめてくれている。
安部貴住
《circulate(frame)》額、布、シール
倉庫全体の気配を透け感のある布で見せてくれる。黒い点は、中心点や主軸もなく収束・分裂・増殖し続けているかのようだ。
《3号倉庫、加湿中》アヒルの加湿器、ホワイトボード
休憩場所に置かれたアヒルの加湿器。この作品について、ソンは「3号空間への感謝の気持ちを込めて、倉庫全体を加湿する気持ちです。」と言うが、加湿器からはソンと共有した時の情景が噴き出ているではないか。と言うのも、彼がここに来た季節は2008年の冬。作家と客人は、倉庫のストーブに置かれた‘やかん’から噴き上がる蒸気越しに、美術や自身の住む街の話をした。その時のお茶は、‘やかん’から注がれた湯だった。あのやかんの蒸気、湯呑からの湯気、加えて、若いアーティストが美術を学ぶ情熱と語る高揚感…。彼は覚えていないかもしれないが。
《もう一つの3号倉庫》交換した名刺、額縁
福岡での出会いを名刺を用いて表現。これらの異なった場所に住み、年齢・ポジション・考えなどの差異ある人との出会いが風化することなく、今でも大切にされていることが伝わる。
ソンの作品は、「3号倉庫が、自分にとってどういう場であったか」・「感謝」ということに徹し、「クロージング展」としての展覧会を成立させていた。
そして、美術を志す若者の情熱を貰ってきた一般鑑賞者の私も、あしながおじさんに感謝の気持ちをここに記したい。彼らは、「人生広くもなれば、狭くもなる。それは、人生から何かを得ることではなく、人生に何を注ぎ込むかにかかっている。(※)」と教えてくれた。
※ルーシー・モード・モンゴメリ「赤毛のアン」より引用
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