ここにあるよ!美術への扉
TEXT 友利香
身の回りの物や、普段の何気ない事柄から溢れ出る卑近さを、「新しい価値」として感受させる中島洋和。
彼の作品は、今暮らしている日常空間を自由に泳いで遊ぶ楽しさで満ちている。

《フラワーウォール》
《フラワーウォール》
高さ3.5mの展示室。上方へと伸びるハート形の葉っぱの壁が30m続く。
朝顔の葉のようだ。よく見ると朝顔の白い花があり、スタッフから「これを花に押し付けてください」と冷却剤を手渡される。花を冷やすと、花は赤や青へと色づき始める。
どんどん花が咲いていく様子が面白い!どんどん花を咲かせることができる自分が嬉しい!
遠めから眺めると、ガラス(壁)の向こう側に溜まっている光を背景に「朝顔」と、人の喜々とした姿がくっきり見える。この光景も爽やかだ。
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《ステキなあなた》 |
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《ステキなあなた》
「ステキなあなた」と呼びかけられて扉を開くと、そこには天使に祝福された私、ハートに埋もれた私などが映っている。「あら、まあ、そうかしら、私ってステキ?」と、目を開き、自分をみつめる。
「鏡よ、鏡よ、世界で一番…?」と問いかける必要はない。「私ってホントにステキ!」だと、ストレートに思わせてくれる。この作品に使われた卑近なものとは、鏡台ではなく「自分」である。
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《世界一周》 |
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《世界一周》
順路の矢印通りに進むと、がらんどうの空間。作品らしき物はない。
「覗き」は人の本能。とりあえず壁の隙間を覗いてみると、…あれれ?
覗き見をしている怪しい後姿は私ではないですか!自分の後ろ姿をリアルに見るのは初めて。
確かに、隙間を覗いている時の私の視線は、世界を一周して背中に戻ってきています。

《ドロップボール》
《ドロップボール》
管を繋いで、ビー玉を入れる。出てくる玉や音にドキドキ!
「ワークショップは美術の玄関口」と言う中島のワークショップは、美術家が自分の得意な技法で何かを創作させるのではなく、子どもたち自らが、自身の「五感」と「感性」をつなげ、広げていくことに主眼が置かれている。(それが、美術への入り口なのだから。)
子ども対象に実施されたワークショップは、今回も募集早々、満員御礼の盛況ぶり。
子どもたちは、身近な物の見えているのに見てなかったステキな事柄や、聴こえているのに聴いていなかったステキな音に気付く=「個人の歓び」から始まり、最後には「全員の歓び」で、大人びた公共空間を占拠してしまった。
今夏、「現代美術を愉しむ夏」と題し、「長澤英俊展」と「長崎の現代作家3」の2本立てで、現代美術を大きく取り上げた長崎県立美術館。
来館者は(中島の作品で)アートと直接絡み、普段はちょっと気取って静かな美術館を、一時的に「自分色」に変容させてしまったような心地よいイタズラ感で、忘れられない夏になっただろう。 |