topreviews[ 進藤 環 『動く山』/東京]
進藤 環 『動く山』

 
 


曖昧に遠ざかる山

TEXT 立石沙織

鮮やかに伸びる草木、ちりばめられた花。霧がかったかのように少しかすんで幻想的な風景が私たちを迎える。
それらの作品を目の前に立ったとき、私はこれがどこか外国の深い山の中の光景かと思った。
人目に隠れてひっそりとある秘境。人間の手など一切加えられておらず、自然がありのままの美しさでたたずむ場所。
去年の夏に登った霊峰・御嶽山での景色も重なった。

一体この風景はどこに行けばみられるのだろうか、
そう思うのと同時に、景色の儚さが妙に気になった。

景色の儚さ、これがこの作品を観る上でのポイントだった。
実は、これらは現実世界には存在しない風景なのだ。
なぜ、私がどこかの山の上を想像したかというと、第一印象で作品が写真のように見えたからだ。
でも、進藤環の作品は「写真」ではない。よくみると荒い粒子の部分があったり、なんとなく切り取られたようなアトがあったり、写真だけでは表現し得ない、様々な表情がうかがえる。

雑誌や写真から素材を切り取りコラージュし、一度コピー機を通す。コラージュした痕跡を埋めてゆくように筆を加える。
この工程を何度も行い、たった一つの進藤の風景を生み出すのだ。
進藤は、これらの作品を何枚も同時並行で約1年かけてじっくりと取り組んだという。
さらっと見るだけではその厚みを知ることはおそらくできない。最終的な姿として展示されているものは、たった一枚のプリントだけなのだから。
だからであろうか、景色の美しさに圧倒されながらも、一枚の平面という頼りない姿にどこか不安な気持ちにさせられるのだった。

進藤環が生み出す世界。
「動く山」と名付けられたとおり、じわりじわりと目の前から奥へと遠ざかってゆくような不思議な世界。
私たちは目の前に広がる風景を忘れないように目に焼き付けることしかできない。
曖昧で、そこにあるようでいて本当は掴めない、まるで蜃気楼のような光景。
私たちに綺麗な姿をみせながらも、するりと手のうちから消えてしまいそうなほど儚い。
私たちはそれに少しでも近づくために、何かの思い出を編み込んだり、そこに何か物語を産みつけたりして必死で心に留めようとするばかりだ。


進藤 環 『動く山』
2009年4月18日(土)〜26日(日)

新宿眼科画廊(東京都新宿区)

進藤 環
1974年   東京生まれ
1998年   武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
2000年   同大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了
2006年   東京綜合写真専門学校第二学科修了
 
著者のプロフィールや、近況など。

立石沙織(たていしさおり)

1985年 静岡県生まれ。大学でアートマネジメントを専攻。
現在、新宿眼科画廊(東京)スタッフをしながら修業中。




topnewsreviewscolumnspeoplespecialarchivewhat's PEELERwritersnewslettermail

Copyright (C) PEELER. All Rights Reserved.