ちなみに、この火薬ドローイングは、蔡の作品中で最大級、高さ4m全長45m。
14世紀元朝末期の黄公望の『富春山居図』という初秋の江南を描いた画巻を借りて描いたという。
池の水量は60t。
水盤の横には、その水盤に進むかのような方向で、大きな廃船が展示されている。
これは、蔡がかつていわき市(福島県)を訪れた際、海岸に半ば砂に埋没していた木造の船に魅了され、それを地元住民と共に引き揚げたという船である。
以来、彼はその船の骨組みを使って、各地で「再生」をテーマにインスタレーションを展開している。
ここ広島では、廃船を埋めた砂にクリスマスローズを植え、《無人の花園》というタイトルで出現させた。
クリスマスローズはキリストを象徴する花であり、冬に白い花を咲かせながら根を伸ばし続けることから再生を意味する。
朽ち果てた船のかすかな生気、花の健気さの裏にあるしたたかさが、いのちの蘇生と生き残りの姿を見せている。
こうして地下展示室は、生命の根源とされる火・陽・水・土の元素に満ち、中国・西洋・和の気が流れている。
この「無人の」世界の、どこから何が生まれくるのだろうか。
ーこの続きは、私たちがこれから生み出すもの。
それが、ヒロシマ賞に於いて私たちに課せられた責務である。
蔡が、アメリカや広島で《キノコ雲のある世紀:20世紀プロジェクト》を行う意味や、 「無人の」と題された作品の意味を、
私たち一人一人が考え、行動し、平和へと世界を動かしたとき、このプロジェクトは完成する。
※ヒロシマ賞
3年に一回、現代美術の分野で、人類の平和に貢献したアーティストに贈られる賞。
これまでの受賞者
第1回1998年 三宅一生(ファッションデザイナー)
第2回1992年 ロバート・ラウシェングバーグ(画家)
第3回1995年 レオン・ゴラブ、ナンシー・スペロ夫妻(共に画家)
第4回1998年 クシュシトフ・ウディチコ(芸術家)
第5回2001年 ダニエル・リベスキンド(建築家)
第6回2004年 シリン・ネシャネット(映像作家)
第7回2007年 蔡國強 (現代美術家)