topreviews[第7回ヒロシマ賞受賞記念 蔡國強展 /広島]
第7回ヒロシマ賞受賞記念 蔡國強展
鎮魂と希望・再生の狼煙(のろし)
TEXT 友利 香
画像奥《不透明モニュメント》2006年 画像手前《先へ進んで下さい、見るべきものはありません》2006年
Photograph: Seiji Toyonaga 提供:広島市現代美術館

2008年10月25日午後1時、
蔡國強が原爆ドームの見える太田川河川敷で、1000発の黒い花火を打ち上げた。
原爆ドームと黒い煙が一緒に写った映像を見ると、 自分も「あの時代」に生きていた記憶があるような錯覚に陥る。
この黒い花火は、「墨絵のようだ」と賞賛されているが、 この上空に噴き上げ、飛び散る黒い花火は、ヒロシマの犠牲者や、 現在でも人間の身勝手な行為の犠牲になっていく人々の怒りと絶望の黒い血流のようだ。
爆音は、血栓が決壊する音なのか。
この酸素を失った黒い血を、再び赤い動脈血へと生まれ変えなくてはならない。
空中へ上がっていく火薬が、爆音と共に空中で開く瞬間の変わり目、
人々の事実が過去として葬られていくことへの諦めは、再び鎮魂と希望へと変わる。
蔡は、原爆ドームの“形骸化”を爆破したのだ。

こうして、第7回ヒロシマ賞(※)を受賞した蔡國強の記念展覧会が始まった。

YouTube - Cai Guo-Qiang, Black Fireworks, Hiroshima, 2008
http://jp.youtube.com/watch?v=wBsa6YSUFU0


広島市現代美術館「蔡國強展」での展示は、 《不透明モニュメント》《先に進んでください、見るべきものはありません》の2点から始まる。

《不透明モニュメント》
9.11とそれ以降に起こった世界の出来事の中から、蔡が関心をもった事柄が70件位彫られている。
それは、どの事柄を誇張して描くことなく、等価に彫られている。
そこには、「北京オリンピック」や、「国際展・アートビエンナーレ」など、明るい事柄も見られるが、 恐怖や不快な事件が目につく。
世界妖怪地図のようだ。怒りや恐怖の事件は、妖怪化した人間の仕業だからなのか。
この淡々とした均一な彫り具合・石の持つモニュメント性・石灰岩が見せる化石のような風合いは、鑑賞者に事柄の歴史性・相関関係・元凶などを考える余裕を与え、私たちが住む世界を体内に収めさせる。

《無人の自然:広島市現代美術館のためのプロジェクト》2008年
Photograph: Seiji Toyonaga 提供:広島市現代美術館
地下は、蔡が本展のために広島で制作した《無人の自然》《無人の花園》が展示されている。
展示室入り口から見える光景は、《無人の自然》。
《無人の自然》とは、人が絶滅した世界ということなのだろう。秘境のようだ。
ここでは靴を脱ぎ、壁と水盤の間を歩く。歩いてみると、左から、焼け焦げた人が折り重なっているようなドローイングの山が迫ってくる。右は水。死者の霊を慰める心の原風景の中にいるのか。
水盤越しに見る風景は、美術館の2本の柱をしっかりと水の中に取り込み、 ヒロシマと言う場所性を強く意識させる。

ちなみに、この火薬ドローイングは、蔡の作品中で最大級、高さ4m全長45m。
14世紀元朝末期の黄公望の『富春山居図』という初秋の江南を描いた画巻を借りて描いたという。
池の水量は60t。

水盤の横には、その水盤に進むかのような方向で、大きな廃船が展示されている。
これは、蔡がかつていわき市(福島県)を訪れた際、海岸に半ば砂に埋没していた木造の船に魅了され、それを地元住民と共に引き揚げたという船である。
以来、彼はその船の骨組みを使って、各地で「再生」をテーマにインスタレーションを展開している。
ここ広島では、廃船を埋めた砂にクリスマスローズを植え、《無人の花園》というタイトルで出現させた。
クリスマスローズはキリストを象徴する花であり、冬に白い花を咲かせながら根を伸ばし続けることから再生を意味する。
朽ち果てた船のかすかな生気、花の健気さの裏にあるしたたかさが、いのちの蘇生と生き残りの姿を見せている。

こうして地下展示室は、生命の根源とされる火・陽・水・土の元素に満ち、中国・西洋・和の気が流れている。
この「無人の」世界の、どこから何が生まれくるのだろうか。

ーこの続きは、私たちがこれから生み出すもの。
それが、ヒロシマ賞に於いて私たちに課せられた責務である。
蔡が、アメリカや広島で《キノコ雲のある世紀:20世紀プロジェクト》を行う意味や、 「無人の」と題された作品の意味を、
私たち一人一人が考え、行動し、平和へと世界を動かしたとき、このプロジェクトは完成する。

※ヒロシマ賞
3年に一回、現代美術の分野で、人類の平和に貢献したアーティストに贈られる賞。
これまでの受賞者
第1回1998年 三宅一生(ファッションデザイナー)
第2回1992年 ロバート・ラウシェングバーグ(画家)
第3回1995年 レオン・ゴラブ、ナンシー・スペロ夫妻(共に画家)
第4回1998年 クシュシトフ・ウディチコ(芸術家)
第5回2001年 ダニエル・リベスキンド(建築家)
第6回2004年 シリン・ネシャネット(映像作家)
第7回2007年 蔡國強 (現代美術家)


第7回ヒロシマ賞受賞記念 蔡國強展
2008年10月25日-2009年1月12日

広島市現代美術館(広島県広島市) 
 
著者のプロフィールや、近況など。

友利香(ともとしかおり)

「蔡國強展」では、制作過程などの映像がたくさんありました。
蔡さんはもちろん、それに関わる人たちの表情に大きな愛を感じるのです。
制作段階自体も作品で、できた作品も作品で・・・。
ん?・・・私の足りない脳みそ内で、うまくまとまるかしら。。。
今年も、たくさん勉強したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。




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