|
|
《FALL DOWN/落下/●●》天井部 |
彼は決して死しはしない
TEXT 友利 香
福岡市那の津港「共同アトリエ・3号倉庫」という匿名性を帯びた名前の倉庫。
この重い扉を開くや否や、高い天井の電灯に虫が群がっているのが目に入る。
気持ちが悪い。
2階に上がり近づくと、それは虫ではなく、人の形をした紙であることがわかる。
2000体以上はあると言う人形(ひとがた)は、現在の社会制度や組織からIDを消され、抹殺されていく人々のようだ。
知らないうちに、支配階級・独裁者による暗黒時代がやってきていたのか。
タイトルは、《FALL DOWN/落下/●●》。
日本社会のダークな断面が的確に表現されている。
しかし、ソンは「絶望的であっても希望に向かって生き抜いてほしい」と言う。
その言葉と作品のベクトルが合致しない。
作品を天井部・中間部・床部分の3つに分けてひとつひとつ見ると、 それぞれの様相が異なる。そこにその手がかりがありそうだ。
作品内部に入ってみると、ライトを受け、私の体にも浮遊する人形の影が映る。
こうして鑑賞者も作品の中の一人になる。
浮遊している人たちがつながっている糸の先は、どこまで続いているのだろうか。
私を吊るす糸があるとしたら、どこに続いているのか。
いやいや、私は吊るされはしたくない。
糸は、こちら側に手繰り(たぐり)寄せるものなのだ。
こうして、視線も気持ちも上向きになる。
生きて行くということは、多くのものや、討ち死にした自分を捨てながらも、 自身が選んだ道を走り続けることだ。
床の人形は、捨ててきた自分、討ち死にした(しかかった)自分、 天井の人形は、ひらひらしながらも上昇しようとする、勢いある自分なのだ。
ソンは、神戸ビエンナーレ2007で、「KOBE People」という作品を発表している。
それは、9000枚(約3000人)以上の在日外国人の顔写真でトンネルを作り、 その中を歩く日本人が、逆にマイノリティになるという仕掛けの作品だった。
裏を返せば、在日外国人である彼自身が、日本社会でマイノリティとして生きて行くことへの思索が感じられた。
彼は、この初めての個展で、日本社会で生き抜く決意を鮮やかに表わしていた。
注)文中●●はハングル文字です。下記が当てはまります。