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a.《moo (モー)》
段ボール、マスキングテープ 2008年
b,c《ウッウ三兄弟》 段ボール箱(×3)、マスキングテープ 2008年
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段ボールから漂う得体の知れない薄気味悪さ
TEXT 田中由紀子
ありふれた段ボール箱から繰り出される思いがけない動き。意表を突かれ見入るうちに、段ボール箱がペットのイヌやネコ、ぜんまい仕掛けのおもちゃにも見えてくる。マレーシア出身のアーティスト、タン・ルイは、近年そんなユニークな彫刻を手がけてきた。これまではモーターを使うことによって不可思議な動きを創出してきたが、今回は機械じかけの作品は見当たらなかった。
新作は、使用済みの段ボール箱を解体し、外側と内側を逆にして元の形に組み上げた後、一部を切り出して、箱の外側に小さな箱をつくるという方法で制作されていた。小さな箱は本体とつながっており、そのさまは段ボール箱が細胞分裂しているようにも感じられた。便器をモチーフにした作品や、意外な動きを見せる段ボール箱など、「生きていること」を作品化してきたタンだが、新作においてもテーマにブレはない。
たとえば、小さな箱を指先でつつくと上下に揺れる《moo(モー)》は、首が動く張り子細工の玩具のようで、モーターがなくても動きを生み出せる点に驚かされた。あるいは《ウッウ三兄弟》は、段ボール箱に元々空けられていたという2つの穴がちょうど目のようであり、また接着部分の重なりが動物の耳のようで、最近ブームの「ゆるキャラ」を想起させた。
「モーターを使った作品は、動き自体でごまかしている感が否めなかった」という思いから試作を重ねた今作。形態はユーモラスだが、ひょっとしたら何かの生命が宿っているのかも……という得体が知れない薄気味悪さが、会場を後にしてからこみ上げてきた。
ところで、タンは初期から一貫して廃材を使用しているが、段ボールに興味を持ったのは、母国では見たことがなかったからだという。コストが安く軽量な段ボールは、今日物流に欠かせない資材だが、用途が済めばゴミとして捨てられている場合も少なくない。そんな段ボールがどことなく生きているかのような様相を呈した作品群は、大量消費を善とし、様々な資源を食いつぶしてきた我々をあざ笑っているようにも思えた。