topreviews[「 Father VS. daughter 」 zon sakai + fumiwo iwamoto exhibition /福岡]
「 Father VS. daughter 」 zon sakai + fumiwo iwamoto exhibition

父と娘 その断絶。
TEXT 小山冴子

 
40代になってから、自身の半生をともに生きてきたタイヤのゴムチューブを素材に彫刻作品を制作、展覧会やそれを背負ってのパフォーマンスを各地で勢力的に行ってきた作家、坂井存と映像などを使ったインスタレーションを制作する岩本史緒との二人展。
岩本史緒は10年ほど前福岡で作家活動を行っていたが、その後アメリカに留学。去年福岡に戻って以降は展覧会やイベントの企画などを中心に勢力的に活動をしている。私が彼女の展示を見るのは今回が初めてになる。
第一次ベビーブーム、いわゆる団塊の世代である坂井と、第二次ベビーブームの世代になる岩本。親子ほど年の離れた二人の世代間コミュニケーションでもあるこの展覧会は、一つの空間を共に構築しつつも、お互いの共有していない、また共有できない断絶を強く感じさせた。

入り口には椅子、机、ヘルメット、そして有刺鉄線でできた高いバリケード。床はやわらかく土を思わせる。会場自体は大して広くはない。
バリケードと壁にはさまれた細い道を進み、バリケードのつきあたりを曲がると空間があるが、非常に暗いのでしばらくは何も見えない。目が暗闇になれると同時に、見えてくるのは壁面に投影されたモノクロの映像である。
バリケードの上から投影されているその映像には、有刺鉄線の影が映りこんでいる。映っているのは昔のニュース映像−特に学生運動や安保闘争の頃のものか−を編集したもの。音は入っておらず、モノクロで、しかもぼやけているのも手伝って、その映像にはなんだかリアリティがないように感じられる。有刺鉄線の影が入ることで、その映像をより遠くの出来事のようにぼやかしている。
目がなれてくると その空間が黒いゴムの壁に覆われていること、床がゴムチップで埋め尽くされていることが分かる。バリケードには酒の瓶や煙草、満杯になった灰皿、ヘルメット、警棒、植木鉢などが並んでいる。

この空間は、お互いの共同作業によって生み出されたものだが、にもかかわらず、あきらかに父親の空間であるかのように感じられた。
それはバリケードやタバコやゴムチップが父の人生や体験と密接に関係しているものであり、そこに現実感があるからで、だからこそ暗闇に浮かぶ映像の曖昧さが際立っている。

団塊の世代である父親は、その青春を学生運動や革命の気運のなかで過ごしてきた。そしてそれは70年代以降に生まれた私たちには(80年代に生まれた私にはさらに)絶対に感じられない空気であり、「あの時代」として、古めかしく懐かしい、ときに忌まわしくもうらやましいものとして括られてしまう。
歴史が終わった後の、イデオロギーなき世代とも言われる、ぬるい鈍感な世界に育った私たちは、あの時代にあこがれに似た想いを抱くことがある。鉄線の影ごしに映る映像は、その遠く、懐かしい時代をまるでどこか違う世界の出来事のように映し出していた。
しかし、あの時代に青春を過ごした父親ももう居ない。彼らは高度経済成長やバブル景気の中で懸命に働き、今ではふとしたきっかけでその頃を懐かしむか、思い起こすのも忌まわしいものとして封印してしまうか、もしくは最初から傍観者であるかのいずれかだ。様々な思想を学び、議論をし、政治に憤りを感じ、活動をしていたあの若者たちは、今ではメタボリックシンドロームに悩まされる中年である。
娘が父と語るとき、父の過ぎ去った青春時代は語られない。だからこそ娘はそれを取り戻そうとするのではないだろうか。娘は、一つの空間をともに作るという行為によって、父の不在、世代の断絶を埋めようとした。

父の実体験として、現実感をともなうバリケードや煙草や酒瓶。そしてその後の父親が常に背負ってきた生業の断片。そこに浮かぶ曖昧なイメージ。その中でじわりと見えてくるのは、父への憧れと諦め、触れようとしても触れられない、分かろうとしても分かりあえない父と娘、そして現代とあの時代の断絶の姿のように、私には見えた。


「 Father VS. daughter 」 zon sakai + fumiwo iwamoto exhibition
2008年4月9日ー4月26日

modern art bank WALD(福岡県福岡市)

artist profile

坂井存 
1948年、久留米市生まれ。1996年よりタイヤのチューブを使ったインスタレーション作品の制作を開始。団塊の世代としてのメンタリティ、学生運動に明け暮れた学生時代に作られた政治意識、家庭や仕事といった誰でもが多かれ少なかれ考えざるをえない日常的な問題との格闘等をテーマに制作を続けている。1999年に「たけしの誰でもピカソ」に出演した際は、メダルを3個獲得。2001年には、岡本太郎記念現代芸術大賞に入選。
2000年より、自らのチューブ作品を背負って国内外の様々な場所を訪れる「パフォーマンス」を開始。これまでに福岡、東京、広島、沖縄、韓国等でパフォーマンスを行う。2007年にはじめてヨーロッパに出かけ、世界の巨大美術祭の代表、ベニス・ビエンナーレとドクメンタにてゲリラ・パフォーマンスを敢行。http://www2.neweb.ne.jp/wd/zon/ja/index.html

岩本史緒
collaborative art network in-betweenディレクター。2007年に帰国後は展覧会やライブイベントの企画など、勢力的に活動している。

 
著者プロフィールや、近況など。

小山冴子(おやまさえこ)

1982年福岡生まれ
art space tetraメンバー
最近、世界の危機的な状況やそれに対するデモなどについて考えることがありますが、そういう時団塊の世代の人々の活動が見えてこなくて、それは「あの時代」を経験しているからこその態度なのかなと、思ったりしていたところで。
この展覧会を見て「ああ、やっぱり分かりあえないのかな」と思ったのでした。




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