topreviews[森村 誠 展 『白い風景』 /大阪]
森村 誠 展 『白い風景』
パリなんてクソくらえ!
TEXT 木坂 葵

A
A 『A Map of Paris 』

 パリほど洗練されたイメージが浸透している街もないだろう。
しかし、森村誠はそんなパリの街を犬の糞で埋め尽くす―地図の上で。

 『白い風景』と題された彼の個展では、地図を使った新作、文字を題材とした近作が展示されている。
『A Map of Paris <merde>』は、街で売っている旅行者向けの地図に表記されている m/e/r/d/e(フランス語で犬の糞という意味)以外の全てのアルファベットが修正ペンで消されているという作品 (他、<shit> <fuck> <bitch> <nul>もあり)。(画像 A,B)こんなタブーワーズばかりな理由は、昨年パリでレジデンスを経験した作家自身が、「パリで何もいいことがなかった」と感じていたことが関係あるそうだ。
 地図の中の、無数の白い点と線の中にコロコロと置き去りにされた五文字の「犬の糞」は、パリの道端に転がっている犬の糞を示しているかのようだ。
そして、バラバラにされた単語は、その意味や彼の気持ちとは裏腹に、単なる模様と化す。

B
 
B 『A Map of Paris 』(部分)
C
D
 
E
F
G
H
 
C,D 『現代英和 笑薬・睡眠薬』
E〜H 『パスタ <LSD>』
 
 一方、『現代英和 笑薬・睡眠薬』(画像 C,D)という作品では、文字が抜き取られる。
英和辞典の中から、「は」と「Z」だけが全て切り抜かれ、ガラス瓶に詰められている。
そのこころは?
ははは・・・笑い薬。Zzz・・・睡眠薬。
アルファベット型の粒パスタの中から、L/S/Dだけ集めて作られた「ドラッグ」もある。(画像 E~H)

 世界を把握する手がかりとなる地図も、世界を読み解く手がかりである辞書も、彼の几帳面な行為によって用途を剥奪される。
「言霊」「含蓄」「言葉の重み」なんて、左右の "m"や "r"、「あ」や「は」がいなくなった途端、はかなく消えていくもの。
けれど、軽やかなナンセンスさを持ち合わせた森村の作品は、文字通り、文字の新たな「質」と「量」を生み出していくのである。


森村 誠 展 『白い風景』

Gallery OUT of PLACE
2008年2月21日〜3月23日
 
著者プロフィールや、近況など。

木坂 葵(きさか あおい)

1978年新潟生まれ。コラム『ベルリンアート便り』の後は、地元関西での展覧会レビューを書いていく予定です。




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