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[第1回ウィメンズ・アーティスト展覧事業「稲垣智子展 波」/大阪]
第1回ウィメンズ・アーティスト展覧事業「稲垣智子展 波」
私の知らないことを、
あなたは知る必要があるのだろうか?
TEXT 藤田千彩
《波》、パフォーマンス/ビデオインスタレーション、2007年
《砂漠》、ビデオインスタレーション、2006年
《Color White》、ビデオインスタレーション、2004年
《波》、パフォーマンス/ビデオインスタレーション、2007年
たとえば、いまあなたがいる場所はどこだろうか。
私はアパートの一室でパソコンに向かっている。
このアパートはいつ出来たのか、私の前にどういった人が住んでいたのか、この町の10年前を知らない。
私があなたの過去を知らないように、あなたは私が10年前何をしていたかも知らない。
稲垣智子
のインスタレーション作品を展示していたのは、ドーンセンターという場所だった。
大阪府の建物で、いわゆる女性参画センターのようなものらしい。
12年前出来たが、この夏に壊されるというプールが、稲垣に与えられた展示スペースだった。
そのプールは出来て数年で閉じられてしまった。
どのくらい活用されていたのか。
なぜ閉じられてしまったのか。
そして、どうしてこの夏に壊されてしまうのか。
詳しいことを知ることはできないし、知る必要もないのかもしれない。
稲垣の手掛ける映像インスタレーション作品は、3作品あった。
入るとすぐ、洗面台のような場所にあったのは「砂漠」。
横たわった稲垣の目から、涙が流れている。
ぽた・・・、ぽた・・・、ぽたぽた・・・、ぽたぽたぽた。
涙の間隔が短くなると同時に、画面上部から水が目に向かって落とされていることに気づく。
なんだ、と思っていたら作品は終わる。
1分という作品の長さが、ものすごい長く感じられる。
暗い通路を進むと、女性のシャワー室へ。
そこで流れていた「Color White」という作品は、以前稲垣がレジデンスをしていたアーカスで見たときは、
アーカスが使っている元・小学校の校舎にある掃除道具入れに投影されていた。
白いドレスを着た女性の体の内側から、突然血のように赤い液体があふれだす。
止めることもできず、その赤は白いドレスを染めていく。
そして赤く染まったドレスを、シャワーで流すと、
元通りの白いドレスになるのだが、下のドレスとは違って濡れてしまう女性。
シャワー室で見ると、そのシャワーの音や映像がとてもリアルだった。
そして映像インスタレーションだというのに、床に赤い色が流れているのではないか、とか、薄暗い中に女性が立っている状態にどきっとする、とか、何が起こったのかとはっとさせられてしまう。
シャワー室を越えると、メインのプールで新作「波」が展示されていた。
作品は2スクリーンで、水のないからっぽのプールで行われたパフォーマンス風景を2つの角度から撮影し、映し出している。
右手のスクリーンでは、紙を持ってプールに入っていく約80人の人が映されている。
やがて正面のスクリーンに、彼らが持っている紙を読んだり、眺めている姿が見える。
まもなく右手スクリーンでは、その紙を持った人たちがカメラ近くの箱かなにかに紙を入れていき、プールから出て行く姿が映し出される。
稲垣は「水辺の“波”ではなく、思想や流行を意味する“波”を意味する」と言う。
正直言って、最初なにが起こったのかよく分からなかった。
紙にメッセージや指示があり、それは人によって違うことが書いてある、とか、プールから出て行く姿は何か投票しているような、ゴミ箱に捨てているような、とか。
青く薄暗い場所で、白い紙を持たされて、右往左往している老若男女に、何があったのだろう。
ひどく不親切な作品で、想像力よりいらつきを覚えた。
「分からない」と言い切ってさっさと会場を後にする他の観客の気持ちがよく分かった。
しかし「分からない」ほど簡単な感嘆詞はない。
2回も3回も見ても分からなかった。
どうして紙を持っているのか、彼らは何をしたかったのか、稲垣は何を伝えたいのか。
「なんでこの場所でこんなことしているの、紙は、彼らは、何を言いたいの」と食って掛かる私に、稲垣は言った。
「言わなくてもいいこと、知らなくてもいいこと、それが世の中にあるってことよ」
第1回ウィメンズ・アーティスト展覧事業「稲垣智子展 波」
ドーンセンタープール跡
(大阪府大阪市)
I期:2007年3月24日〜31日
II期:2007年4月1日〜8日
著者プロフィールや、近況など。
藤田千彩(ふじたちさい)
1974年岡山県生まれ。
大学卒業後、某通信会社に勤務、社内報などを手がける。
美学校トンチキアートクラス修了。
現在、「ぴあ」「週刊SPA!」などでアートに関する文章を執筆中。
http://chisai-web.hp.infoseek.co.jp/
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